▼ 小売業の8月決算が盛んに出ている。メディアでも決算発表時のコメントが多く出ているし、投資家向けの決算説明会も毎日ひっきりなしだ。そうした中で必ず出る質問が10月からの消費増税の影響。東京オリンピック開催後は景気ダウンという見方もある中で興味のある話題。
▼ ただ以前の消費税増税までは増税前の駆け込み需要と増税後の反動がどうであるかがみんなの注目材料だったし、小売業の経営者もそれに多くのコメントを割いていた。しかし、今回は違う。経営者の恨み節は「中小企業成りした小売業」に向かっている。もう少し説明しよう。
▼ 資本金が5,000万円以下の企業を定義上、中小企業と言う。で、増税を強行した政府は中小企業である小売業がキャッシュレス決済をした場合は5%ポイントがお客さんに付与されるのだ。実質的な政府がバックにたった値下げである。経営地盤が脆弱な中小企業の経営を支えるのは確かに間違ってないだろう。
▼ しかし、今回はもともと中小企業じゃなかったところが、減資と言って資本金をわざと減らして中小企業に「成って」、ポイントを貰える対象になろうという企業が直前に増えたのだ。ルールとはいえ、ちょっと抜け道っぽい話。それで税金も大量に払い、消費者の生活の根底を支えながら、多くの雇用者を雇用している大企業が一斉に抗議し始めたのだ。尤もと言える。
▼ でも。小売業の経営者側に問題はないのだろうか。私はあると思う。それは「日本の小売業は一致協力して政治力を得ようという努力」をしないことだ。政治力やロビー活動で物事を変えようとするのは必ずしもよくはないだろう。しかし、正しいと思う主義主張があるならば、志をイチにする人々が意見を訴えることが重要だろう。実際、ダイエーの故中内功さんやセブンイレブンの前の社長の鈴木敏文さんが経団連の副会長だったときは政治力をきちんともって、おかしいことはおかしいと言い、消費者の生活を守ろうとした。また、ライフコーポレーションの清水会長は戦争体験からも政治に対しては非常に厳しい目をもって意見を述べていた。
▼ しかし、今回はどうだ?。小売業にはいろいろな協会やボランタリーチェーンなどがあるにも関わらず、全く共同歩調を取らずブツブツと文句を陰で言うだけだ。そんな意見を相手にするほど政治は暇ではない。結局、消費税は上がり、大手は何の恩恵もなく、中小企業のことを考えてますよーという証拠残しにポイント還元をされ、その対抗のために身を削ってポイントや値引き還元している状況だ。何をかいわんやだ。
▼ 結局のところ、小売業はいつのまにか、烏合の衆、お山の大将、地方豪族ではあっても、巨視的視点から業界を動かせる経営者などいなくなったのではないか。情けない業界だ。どんなにドラッグストアが成長しましたとか、再編があちこちで進んでますとか、ECで買い物をできるようにニューリテイルに力を入れてますといっても、結局は全体のことを考えられないバラバラな集団ではないか。だから、経団連や日経連なんかのエライさんは旧態依然の重厚長大産業なのだ。
▼ 流通業というのは国民の生活を支える尊いビジネスであるがゆえに情けなくてしょうがない。もっとも、別ルートでそれを支えるはずの労働組合の上部団体も似たりよったりなのが悲しい限りなんだが。