▼ 昨日、朝から伊豆に行くか迷っていた。ヤオハンの代表であった和田一夫さんのご葬儀があったからだ。流通の風雲児、中国ASEAN展開を進めた先見性のあるグローバル流通業ビジネスマン、そしてその後続く大手流通業の破綻の先駆けとなった男。最近再放送をしている「おしん」のモデルは母上の和田カツさんではないかという説はあまりに有名だ。
▼ しかし、結局行かなかった。いや、行けなかった。和田一夫さんの巨大さに腰が引けたところもあるし、なによりも無断でご葬儀に出ることは無礼ではないかという思いもあった。結局、家で手を拝むだけとした。さらば稀代の流通王、アジア・海外展開に本気で目を向けた流通経営者。いま、日本の流通業の経営者はみな、日本国内のちまちまとしたシェアの取り合いに汲々として、そのための道具として取引先を苦しめて、従業員を苦しめて、それでなんとかやってますよ。随分和田さんの頃の志とはかわってしまった。「お山の大将」それしかいなくなってしまった。
▼ 一方でお詫びもしなければなりません。初めての転職のあと、中京にあるヤオハンの大型店ネクステージ知立に伺ったときのこと。ヤオハンが厳しい状況とは伺っていたけど、特に気にせず開店と同時に店舗見学をさせていただきました。そしてまもなくヤオハン倒産のニュース。携帯ニュースもネットもない頃でしたが、異常な雰囲気は感じました。取引先が次から次に来るのです。それだけならばまだしも、彼らは商品を納品するのではなく、回収し始めたのです。一番強引だったのは飲料関係で、酒とソフトドリンク。そして菓子などの加工食品。従業員のみなさんはそれを黙ってみているしかありません。
▼ あれよあれよという間に棚は空きスペースばかりに。二時間たってふと気づいたら、残ったのは漬物と豆腐だけでした。地元企業がおさめている商品なのでしょう。その様子を伝えたかった若輩者の私は使い捨てカメラの写ルンですを取り出し、バシャバシャと取り出しました。まもなく、副店長という肩書の人が来て怒気をはらんでいいます。「何をしているんだ」。私は名刺を出します、「XX証券 株式調査部 主任アナリスト」。副店長さんは何を誤解したのか、私を株主と思ったのか、一転平謝りに謝りました。その対応に私は申し訳なくなると同時に、流通に携わる方の真摯さ、そして経営破綻を起こすとどうなるのかを感じたのです。
▼ 写真撮影はそれでやめ、店を周り、早々にお店を跡にすることとしました。その差異、テナントだから在庫の保有権があったんでしょうね、ドラッグストアがあいてました。そこでリポビタンDを二箱買って、副店長に託して僕は店を出ました。人の不幸を自分のネタにしようとした苦い思いをもちながら。
▼ ところが後日談があります。あれから20年以上経ったある日、ヤオハンを事業継承した会社に業務で訪問しました。初めてお会いする方と名刺交換しました。名刺にあるお名前を拝見すると見覚えが….。あちらも見覚えがあるようです。そう、あの副店長さんだったのです。「よくぞ、ご無事で!」、私は叫んでしまいました。既に自分が勤務していたところも倒産の憂き目にあっていた私にとって、副店長さんとの出会いはあの後悔の免罪符となりました。
▼ ヤオハンにはそんな思いがあるのです。和田一夫さんに合掌。