▼ 北海道に有名な「水曜どうでしょう」というローカル番組がある。毎日テレビで見ない日はない、大泉洋さんや安田顕さんなどの劇団TEAM-NACSを見出し、番組をDVD化して全国で販売して細るスポンサーCM収入をカバーしてしまったという新しいビジネスモデルを作ったおばけ番組だ。

▼ その作成をしたのが藤村さん、嬉野さんという二人のディレクターだが、彼らがインタビューでこんなことを答えている。「やることない人に限って組織を変えようとする」。どんな企業の経営陣にも当てはまるようで、背筋に電流が走った。今日の風待食堂はそのハイライトを引用しよう。長いけども読む価値は十二分にあることを保証する。 ======================= ▼「放送局をを辞めようと思ったこともあった」
――お2人は放送局を辞めようと思ったことはなかったんですか?
嬉野:おぉ…。それは…あったよね。

藤村:あります、あります。

嬉野: 2009年?2010年頃ですね。2人とも辞めようと思っていました。

――当時は局の方針で、お二人が所属していた制作部が解体されることになった。あの頃、藤村さんが書いた日記の言葉が印象的でした。
日記:
 視聴者をハッピーにするためには、スタッフがハッピーな気持ちで番組を作らなければならない。
 組織のことを考える前に、まず作りて個人が番組と向き合い、出演者と向き合い、視聴者と向き合う。
 そうでなければ人々に支持される番組など作れない。
(2014年4月1日「今日の日記」より)

藤村:会社ってさ、組織を変えれば、なんかリフレッシュされる…みたいなイメージってあるじゃない?やることない人に限って組織を変えようとするんだよね。ウチの会社も、そういうことばっかりやってたから。
制作部も「水曜どうでしょう」をはじめ、いろんな番組が生まれた。番組を続けることによって、そういう力って発揮できるんだけど、ちょっとでも芽が出ないと…となることがある。
いつまでも上の世代がいると、若い奴が育たないから、「こいつらをちょっと外して、若い奴にやらそうみたいな」こともある。まあ、その考えもわかる。
でも、それで一気に組織を変えようとしちゃったからさ。「じゃあ、今までやってきたことって何?」「これから芽が出るかもしれないことも、またスクラップ・アンド・ビルドで全部潰すのか?」「それっておかしくないですか?」って、言っていた時期があった。

嬉野:芽があるというか、「もうちょっと続ければ伸びそう」っていういい番組が一度にゼロにされちゃった憤りはありました。「じゃあ、何を目指したいんだ」っていうのがあった。

藤村:「ただただ、新しくしたい」っていうだけだったから「それはダメでしょ」言ってたのかなぁ。

嬉野:「組織を変革することで注目されたいのかな?」って思ったぐらいでしたよ。受験勉強に身の入らない学生が、やたら部屋の掃除をするみたいな(笑)。

藤村:勉強時間の予定表を書いてみたり「今日は歴史やめといて、じゃあ数学で…」なんて言ってるような感じだよね。

嬉野:「やるぞー!」とか、張り紙を書いたり。

藤村:それやる暇あったら勉強しろって思うもんね(笑)

▼「一つのことをずっとやっているほうがいい」

――結果を急いで、本末転倒になるというか…。いまの世の中は、スピードが速くなって、結果も速く出すように求められている時代なのでしょうか。

嬉野:でも、そんなに早く結果は出ないよね。俺らは23年、同じ仕事をしているから。一つのこと続けていると色々なものが見える。結果的にいろんなことを学ぶ気がする。

藤村:一つのことをやっていくと、ちょっと飽きたりするってことだけかな。一つのことをやるのは楽だからね。別に厳しいことはない。新しいチャレンジとかする必要ねぇし。のんべんだらりとやってりゃ一つのことは続く。無理しなきゃいいだけ。
一つのことをやるって、実はみんなにとって一番いいこと。なのに、短期間での結果ばかりが求められるようになって。
結局、すぐに消費されるものしか生み出せていないのが、いまの社会なんだろうな。江戸時代から続いている店とか職人の技術とかさ、そう簡単に崩せないでしょ。

嬉野:抗えない時間の長さってある。

日記:
 番組とは人が作るものです。そして番組とは、見る人の感性に訴えるものです。
 人がなぜ笑うのか、なぜ感動するのか、そこにマニュアルなんて存在しない。正解もない。
 だから作りては、自分の感性だけを頼りに、自分の感性が何人の人間に届くのか、その一点に死にもの狂いになる。
 周りをかえりみず、ひとつのことだけに没頭する。
 そうしなければ人の感性を響かせることなんてできない。
(2014年4月1日「今日の日記」より)

藤村:同じ製法で、ずっと作り続ける。それに敵わない部分は必ずある。一つのことをずっとやっているほうが、設備投資も少ないし、コストパフォーマンスもいいのにって、俺は思うんだけどね。

嬉野:「水曜どうでしょう」も作り手を変えないという、この頑なまでの姿勢よ。番組の人間関係も、スタッフが変わったって遜色ないだろって思うかもしれないけど、ちょっと違うんだよ。
ご家族でお父さんとお母さんが毎週変わってごらん。そんな家庭成り立たないでしょう。

藤村:子どもはつらいでしょ。これと同じことなんですよ。だから、同じように続けるっていうことがやっぱいい。
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▼ 「やることない人に限って組織を変えようとする」、あこれあいつのことだ、と思いうかぶ人も多いのではないか。私も一人や二人ではなく思い浮かぶ。そして、多少、人材組織論を勉強した立場としては、これは最悪の人と組織に対する向かいあい方なのだ。

▼ なぜ「水曜どうでしょう」は燎原の火のように人気が広がり、今なお拡大しているのか、そのフィロソフィーが垣間見えた気になった。なお、このインタビュー原本は下記で見ることができる。お時間のある方は是非。 https://www.buzzfeed.com/jp/keiyoshikawa/fujiyan-ureshi01?fbclid=IwAR1DtAmDHpHL2ao2z_oud6n-pE7rrYdA_3yf_92UcH-ABjg0xobQRpfZZHk