▼ アパレルEC大手のzozoの第3四半期決算が大幅減益となり、注目されている。要因は主に、(1)寸法を自動測定できるゾゾスーツの効果が予想通りに行かなかったこと、そして(2)zozoでメンバーシップフィーを支払えば値下げを受けられるというzozoarigatoの導入で42社のアパレル会社が取引をやめたことだ。理由は値引きによるブランド価値の毀損だ。
▼ メディア等では事業モデルの限界、経営陣の方向性の間違いを指摘する声が多い。しかし、筆者はここで3つの見方を提示したい。
▼ 1つ目は筆者の意見で、メーカー権限である「価格決定権」を奪ってしまったことが取引メーカーの「虎の尾」を踏んだのではないかという見方だ。
▼ zozoは素晴らしい物流と在庫管理、ECのプラットフォーマーではあるが、あえて意地悪く言えば「業者」であるとも言える。「業者」に価格決定権はない。
▼ 資金負担と稼働率管理と製造技術の最適化を日々考えねばならないメーカーにとって、「価格決定権」は製品ブランドと密接に繋がった彼らの権利、特権である。それを侵した流通業者とハレーションが起こすことは、ダイエーが創業の大阪千林で薬の安売りをしてメーカーや同業他社と対立を生んだこと、後のいわゆる「ダイエー-松下戦争」を引き起こしたことからも流通の常識といえる。
▼ その結果、いわゆる量販店は自社や協力製造業と作り上げた独自スペックでプライベートブランドを作ったわけであり、この分野でのみ価格決定権を持つに至った。zozoに悪意はなかったにせよ、アパレルメーカーが権利である「価格決定権」を侵した反逆者と捉えた可能性はある。アパレルはブランディングが重要であり、かつ長い取引信頼関係を持つ百貨店などとのハレーションを避けたいと思ったと推察しうる。
▼ 2つ目の見方は、zozoは「価格決定権は」侵してはおらず、むしろプラットフォーマーとして適切な戦略をとっただけで、世間の見方が間違っているという考えだ。
▼ zozoを通してECをしている商品はメーカー・ブランドが価格を決めるのであって、値引き分はzozoが自分たちのプラットフォームを使ってくれることによるキックバック、もしくは囲い込みのための報奨とも言える。前澤社長は決算説明会(youtubeで視聴可能)で、ファッションビルやモールで自社カードを使った決済ではポイントを付与することを例示していた。他にもCostcoで買うと安いこと、Amazon-primeの数々の特典、多くの自社カードなどによるポイントも広義の「価格決定権」の侵害となってしまうが、禁じられてはいない。
▼ つまり、zozoは「プラットフォームを使ってくれたことによる報奨」と考えているのに対して、メーカーは「価格決定権の侵害」と捉えている。議論がねじれているだけの可能性がある。とすれば、これは単なる視点の相違に過ぎない。
▼ 3つ目の見方は、より現実的なものだ。たとえ2つ目の意見通り「プラットフォームを使ったことによる報奨」であったとしても、メーカーには「価格決定権の侵害」と映るならば、それは修正せざるをえないほどプラットフォーマーの立場は弱いという考え方だ。なるほどこれは現状を説明するのにしっくり来る。確かに先週の日経新聞ではAmazonの覇権力が弱まってきているのではないかという意見はあるし、進化しすぎたGAFAのような企業群への批判は強まってきている。
▼ この考え方を取ると、メーカーに対してプラットフォーマーは最終的には弱い立場に陥らざるを得ず、特に新しいプラットフォーマーが出現した際は取れる方策が限られ、衰退することになる。
▼ 決算発表後に発表されたアナリスト・レポートではzozoの事業モデルの強さと投資判断強気へのスタンスは変わらないものの、関係者や株式市場の見方はそれで得心していないようだ。その理由は上記の3つの見方が混在し、切り分けられていないことによるものではないかと考えるのだがどうだろうか。