▼ 「私って運がない女よね~」と妻のため息。とても気に入っていたユニクロのインナーウエアが店頭から撤去されてしまったそうだ。材質や形状が良く、ネットでも多くの支持者がいる製品だったが、1月初旬に突然撤去されてしまったと。ネットショップや色々なお店に確認したら、不具合があったのではなく、単に生産をやめて在庫のみになった模様。さっそく買い占めに走ったが、数枚しか確保できず。
▼ 確かに彼女は運が悪い。サンスターのGUMシリーズの歯間ブラシは大のお気に入りだったのに廃番。これもネットでは同じファンの人達の怨嗟の声が上がっていた。後継商品のデンタルフロスは使い勝手も歯の隙間への入り具合も悪く、代替にならないと。他にも彼女がお気に入りでファンになったもので廃番になったものは数知れない。
▼ 流通業は「物が売れない時代だ」という。しかし本当なのかという思いがある。ユニクロに関して言えば、最近は私用の服を買おうとしても脚や腕が入らないため、サイズで諦めるようになった。体型変化をさっぴいて考えても細身になっている。ユニセックス、ユニエイジを打ち出しているユニクロのベーシック商品が、だ。僕個人にとってユニクロは入店する価値のない店になっており、その意味ではもはや「誰にでも良い服を」という彼らのブランドは消失し、単なるコモディティ屋さんだ。
▼ 一方でお気に入りの定番商品を延々と扱っている店もある。イオンの紳士用トップバリュ衣料は秀逸だ。まず下着のトランクスのBEST PRICEは変わらぬデザイン。次に28cmというバカのデカ足の私と息子用のビジネスソックスがいつでも揃っている。靴下は靴と同じく26cmまでしか置かないところが殆どだが、トップバリュには必ずある。何より素敵なのが首周り45cm-袖丈86cmというワイシャツが白だけではなくちょっと小洒落たデザインのものでも揃えてあることだ。さすがにこれはシーズン末には在庫が減るけれど、最近はシーズンインと同時に買いにいってる。これだけの一般的な体型ではない在庫を抱えることは企業として苦労も多いはずだが、それを淡々とこなしているのは素晴らしい限りだ。
▼ そして何よりも素晴らしいのが、イタリアの「デロンギ」のオイルヒーターと加湿器。加湿器事業は他の会社に売却してしまったものの、それでも18年間はシンプルな機構と高い性能、そして何よりもフィルターなどの消耗品をきちんと揃えていて安心して使い続けられた。オイルヒーターに至っては子供が生まれた時の寒さ対策に買って以降23年間、今も現役だ。モダンな最新型も出ているが、このちょっと無骨な古いモデルも23年間変わらず部屋を温め続けてくれている。
▼ メーカーや流通業は「定番」であることの「ブランド価値」を考え直すべきだろうと痛切に思う。確かに技術革新はあるだろう。しかし、目先を変えて商業的な成功を得るだけのモデルチェンジや定番の廃番も多すぎやしないか。そもそも、なぜその製品商品が売れているのか、消費者向け商材を作ったり売ったりしている人はきちんと顧客と向き合っているのか。そうでなければ、妻のような「不幸な女」は増え続け、せっかく保有していたブランド価値への忠誠心は落ちる一方だろう。
▼ 口幅ったいが、「信用・信頼」とは長い年月をかけて形成されるものだ。それは時には時流から外れても作り続ける勇気、売り続ける勇気がいるだろう。そうした勇気を持つ企業のことを消費者はオカネという投票権を持って、一票を投じ続けているわけだ。しかし、そのことにあまりに鈍感になっているような気がしてならない。「物が売れない」のではなく、「売れないようにしている」部分も小さくはないのだ。