▼ 「人間は見たいものしか見えない」と言う。赤信号にしても、失せ物探しにしても、思い込みが認識を邪魔するということなのだろう。
▼ お店で買い物するときもしばしばそういうことが起こる。「ない」と思いこんでいると眼の前にあるけど気づかず、一緒に買い物にいった家族に指摘されて気づくというようなケース。
▼ ところがそれがお店自体でも起こるというのは、なかなかに困ったものだ。いや、お店はその商品を取り扱っているのは勿論知っている。しかし、存在をどうお客さんに認識してもらうかはなかなか難儀な話だ。
▼ 一番それを強く認識したのが、下の写真にある石膏ボードにつける「フック」だ(「壁美人」というのが商品名)。
▼ 賃貸住宅で困るのが壁掛け用にピンやネジ釘を打つと石膏ボードと壁紙に穴が空き、退去する時に原状復帰費用として敷金からお金を引かれてしまうことだ。
▼ 例えば、我が家は目覚まし以外の時計は「掛け時計」派だ。置き時計でもいいじゃん、と言っても家人は視認性が悪いと納得しない。困り果てて見つけたのがこのフック。この優れたところは、ステンレスのホチキス数本で石膏ボードに固定すること。原理は簡単で、ホチキス一本の耐荷重は多分数十グラム程度だろうが、10本でこのフックを固定すれば数十グラムX10本=数百グラムになる。
▼ 加えて設計が優れているので、15本くらい打てば5kgまで耐えられる(写真参照)。掛け時計なんかラクラクだ。数百本打たねばならないけど、同じ原理でテレビやギターの壁掛けもできるアイテムが開発されていること。穴の直径はネジ釘が3mm、画鋲や押しピンが1mmに対して、ホチキスは0.1mm。フックを抜いた後は、ちょっと水をつけたキレイな布でちょいちょいとこすれば跡は一切残らない。
・ さらにすごいのは「ステンレス」のホチキス針が付属してそれで固定すること。何故?。だって、普通の鉄のホチキス針だと錆びるので、穴の跡はみえなくても、錆の茶色い跡は残るから。燕三条の金物屋さん((株)若林製作所)が考えた商品だがまことに素晴らしい。
▼ で、話は「見たいものしか見えない」に戻る。商品としては金物だから、ホームセンターとかで売っているのだが、見事にこの商品の存在を店員が知らないのである。いや、正確にいえば、これをオススメする局面がないのだ。だって、僕がこれを見つけたのはAmazonで「賃貸 壁掛け フック 穴」という検索でだから。そう、今のリアル店舗は「どうしたら良いの?」という質問へのソリューション提供型の提案にはからっきし弱いのだ。
▼ Amazonが恐ろしいなと思うのはこういうソリューションを検索するだけで的確な商品を探し出してくれることである。これは当初のAmazonが書籍やCDなどの「型番」があるものの検索で使われたことと無縁ではないと思っている。その意味で、AmazonがアレクサというAiスピーカーの展開はとてつもない将来を含んでいるように思う。
▼ 余談だが、似たような経験をしたのが「マスキングテープ(マステ)」だ。クラフトをやる人の間ではマステは人気アイテムだが、そもそもは自動車や家などを塗装する時に余計な部分を塗らないための味気ないテープだった。ところが、貼りやすい・はがしやすいという機能+それ自体に模様や色を印刷しておいたことで、一気に産業材料から消費財になった(倉敷のカモヰ製紙が有名)。
▼ 商売は売り方一つ、とは商人だった父からよく聞いた言葉だが、最先端小売業のAmazonの本質は結構そういった古い格言と近いところにあるのかもしれない。
- 持たない生き方2(持てない生き方と貧困化)
- 2019年に向けての悲観・楽観の論拠