▼ 正直なところ、今年2017年の春の本決算の説明を聞いて(スタートトゥデイのwebサイトやYoutubeから誰でも見ることができる)、ゾゾタウンの業績の伸びがピークアウトしてもしょうがないと考えていた。日本の名だたるアパレルブランドがここ数年で雪崩を打つように彼らのプラットフォームに乗ったし、それによって売上や利益を回復させたところも少なくない。
▼ ゾゾタウンだけではないECモールやリアル店舗で販売していることを考えて、広報やIRに積極的なスタートトゥデイでさえ、どんなブランドを扱っているかは明示的に述べることは控えてきた。開示をしているのは取扱ブランド数である。尤も、アパレルサイドが自ら述べた場合は別だが。
▼ そんなスタートトゥデイでさえ、春の決算でGAPがプラットフォームに乗ったことを開示した。いかなOLD NAVYが日本から撤退され、BANANA REPUBLICが米国ほど伸びていないにしても、あのGAPがである。株価から計算した企業価値も一兆円に届き、十二分に成功したと言える。ましてや、このアパレル不況の中でである。
▼ リアルのショッピングモールの多くがアパレルテナントを雑貨や他の業種のテナントに変えてもう数年経つ。実際に、この秋に発表されたアパレル各社の業績は依然として芳しくない。若年層の衣料消費へのスタンス、ユニクロを初めとした高品質・妥当単価のカジュアル衣料の一般化、そして高価格アパレルのメイン販売チャネルであった百貨店(特に地方百貨店)の市場シェア低下。もちろん、ゾゾタウンをはじめとするECという新たなチャネルの台頭。だからこそ、ゾゾタウンは、良い意味でやることはやり遂げたと「思った」のだ。
▼ そうした中で発表されたゾゾスーツは根本的に、EC・ネットで服を買うというハードルを大きく下げた。なにせ自分のサイズを自宅できっちり測ってくれるのだ。今ならば0円で注文できる(実際に届くのは相当先になりそうな勢いだが)。自分専用の採寸専門家を各自が持つようなものであり、「サイズが違うから」という返品やクレームは劇的に減る可能性がある。
▼ それだけではない。ゾゾスーツを来てCMに出るモデルさんや、前澤社長のような格好良い体型ではないデブの私にとって、洋服選びは子供の頃から鬼門だった。なぜならば、、LLや3Lなどと言われた時代の服でシャレた色使いや格好良い服などは望むべくもない時代だったから。かなり「イケてない」服しか売り場にはなかったし、だから現在のパートナーとデートする時はとても憂鬱だった。しかし、ズズスーツがそうした特殊体型にも対応した「イケてる」服を売るならば、私のここからの人生は変わる可能性があるだろう。
▼ 思えば今夏の送料無料化と秋に発表された200円均一の送料設定もそうだった。当初は「ついにゾゾタウンも送料無料化に踏み切るか」と騒いだ外野は、それが壮大な実験であったことに気づき、ほぞを噛んでいるだろう。今回のゾゾスーツだって、もともとはPBを作るというところから始まった話だ。「ゾゾがPB?,冗談じゃない」と悪口を書きまくった記者も今頃、スタートトゥデイの策に驚愕しているだろう。AIだの、IoTだのと話題ばかりが先行するテクノロジーの世界で、一番と言って良いほどに消費の世界でそれを活用したのが、衣料品販売の世界だったことは、なんとも皮肉であり、ゾゾタウンここにありを見せつけた。
▼ それにしても彼らのPDCAの回し方の速さは半端じゃない。「鬼速 PDCA」という本が年央から話題になっているが、そのものだ。とにかくPDCAを全速力で回して、最適値の模索過程を誰よりも早く終え、それを外部や内部と共有し、駄目であればまたPDCAを回す。単純だが、それをきっちりできる企業がどれだけ日本にあるというのか。 ▼ 春に感じた、「ゾゾはそろそろ良いところまで来たなぁ」という考えは、見事に裏切られた。しかし、これほど気持ちの良い裏切られ感は感じたことがない。「凄いなぁ」と独りごちる11月末の週末であった。