▼ トランプ騒ぎから数週間。選挙結果だけでなく、金融市場も円安に株高でおもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎだ。ここでも意思決定の速い投資家はさっさと考えを変えて既に儲け始めているが、遅い方はいまだにグズグズしている。評論家は(人のことは言えないけど)後付理屈でなぜこうなったかの言い訳に必死だ。
▼ 今、二週間分のたまった新聞を今頃読んでいる。やっと11/26土曜日まで来た。トランプの当選演説はなかなか感動的で、おまけにヒラリーは通例と異なり当日ではなく翌日に敗北演説をしたということで、「トランプすげぇ!」という声が当初の一週間だったように記憶する。
▼ しかし新聞を順に読んでいると、金融市場の大喜びとは逆に、この新大統領の言うことはメチャメチャだ。さっさとTPPをやめて米国第一主義でいくとネットメディアで言ったと思ったら、メキシコには一社たりとも米国の企業の工場は出させぬと言い出した。今日は今日で星条旗を焼いてデモをするような輩はぶちこめとも言い出した。威勢は良いが支離滅裂だ。
▼ 米国の白人労働者にはウケルだろう、たしかに。しかし、安い賃金でやりたくない仕事を外国人にさせているのは米国だけではなく日本だろうが先進国はどこでもそうだし、それを果たして白人労働者がするのか?。おまけにiPhoneもフォードのリンカーンも米国内で作ればコスト高は明らかだろう。iPhone8は20万円?、冗談じゃない。まさか、Tシャツまで米国で作るとか言い出さないだろうな。
▼ リーマン・ショックでなりを潜めたが、オプションやデリバティブ、金融工学は上げ下げ(=ボラティリティ、変動性)が高ければ高いほど儲かる。本来はそういう上げ下げのリスク回避の道具だったのだけど、今は上げ下げが激しければ激しいほど儲かるようになっている。それが証拠に日本株がこれから値上がりするという見通しだと新聞は書くが、日本株の現物を買うのではなく、「手数料を払っておいて、上がっていたら安い値段で買う権利(コールオプション)」を買うという面倒臭い手続きをしているのは、自信がないからだろう。誰も未来など予測できない。
▼ はっきりしているのは、英国、米国、仏国、独国、日本、韓国、中国、etc…どこでも、人々の不満が溜まり、従来の予測がつかなくなってきたということだろう。「不確実性の時代」の再来だ。しかも今度はIT技術の進化による超高速が人間心理の気持ちをさらに揺さぶり、ネットであっという間に本当かウソかわからぬ情報が流布される。まるでお化けだ。
▼ あえて時代遅れの表現をすれば、AIやSNSなどを含むIT技術という新たな産業革命で、貧富の差は古き良き帝国・王政時代どころではないほど拡大した。1%の人間が99%の富を握る状態はマルクス・エンゲルスの時代を彷彿とさせる。そして今回の「読めない事態」は資本主義が最終局面まで行き着いた際に起こるという「資本家による労働者搾取」の時代でもあるのではないか。
▼ プロパガンダなんかではなく、ブレクジットやトランプ当選はプロレタリアートの暴力ではない静かな革命なのではないか。そういえばナチスも民主主義のルールに則って台頭してきた。共産主義とナチス、全く相容れないが、それは富裕層と思われているトランプを当選させることが、ヒラリーをシンボルとするエスタブリッシュを妥当するという皮肉な革命なのではないか。
▼ 古新聞を読んで、沸き立つ金融市場に「世界の景気は回復する」と喜んで書いている記事がどのくらいの時間軸で「そんなことを言っていたこともあったなあ…」と思うのに、どのくらいかかるのだろう。尤も、この予想は90%当たらないので、このまま景気が回復してくれるのが一番良いのだけど。