▼ 株式の持ち合いとメインバンクからの借入で企業が動いていた時代、「投資収益率」は軽視されていた。世は市場シェア合戦、売上合戦の頃。せいぜいが「売上利益率」が注目されていたのが1980年代まで。
▼ しかし、そんな時代が終焉を迎える予感の中、勤務先の大先輩が書いたのが「ROE(株主資本利益率)革命」。自己資本を株主資本と読み替え、それを分母にどれだけ最終利益を稼ぎ出すかが企業評価の中心になるという、価値観の革命を予見した本だった。
▼ とはいえ、残念ながら世の中がそうそう一変するわけでもなく、決算短信やアナリストレポートでROEが表記されることがあっても、さほど経営者の意志決定にとって重要であったわけではない。だが、ここに来て革命の第二弾が来ている。企業統治(コーポレートガバナンス)と金融のさらなるグローバル化によって。
▼ ISS、スチュワードシップコード、伊藤レポートといった言葉が企業に新たなハードルを課している。特に伊藤レポートでは「最低でもROE 8%を維持できない企業は存在意義がない」と名言された。これは日本の資本コスト試算7%を超えなければ、海外からの資金供給が絶たれるという見方によるものだ。
▼ ROEも資本コスト(WACC)も財務分析をする人間にとって新しいものではない。ただ、成長から収益率へ視線を変えなければ資金調達はままならぬという見方がこれまでの日本にはなかった。そして、そのためには、お手盛りの経営や取締役会ではなく、外部者によるチェックを伴う企業経営が必要となるというのが革命第二弾の内容。
▼ 事実、メガバンクの再編は終了し、次は地方銀行の再編に金融界は移行している。郵政民営化の流れは再度動き出したし、政治の流れによってはJAバンクやJFマリンバンクといった一次産業に付随した金融業も変化の可能性がある。
▼ もはや資金調達はいつでもできる時代ではなくなりつつある。そうした時代の予感はリーマン危機の時に誰しも経験したはずだが、のど元過ぎて忘れていた。「ROE革命第二弾」は株主を中心とした全てのステークホルダーに目配りしながら経営しなければ、資金調達に詰まる時代が来るという新たな課題を突きつけた。何度目かの黒船来航ということである。