< 「うちは本屋です」 >
ファッションセンスは皆無であることは自覚しているが、面白いマンガを探すことには多少の自信がある。学生時代に仲の良かった友人の実家が喫茶店で、客向けに用意しているマンガをタダでたくさん読ませて貰ったせいだろう。
ただ、今や立ち読み防止でコミック本は袋をかけられて、立ち読みができなくなっている。なので、自分の好きな作家やジャンルに偏った保守的な買い方しかしにくくなってしまった。
そんな中で貴重なのが、「うちは本屋です」とわざわざ注釈を店に付けないとわからないほど多くの雑貨やCD,DVDや雑多なものを売っている専門店Vである。初めてこのお店を地方のショッピングセンターで見つけて入ったときの衝撃は忘れない。ジョージ秋山、望月三起也などの小学生の時に読みたくても小遣いがなくて読めなかった漫画や、ちょっと買うのに憚られるけど興味は尽きないエログロ漫画などが山積みなのだ。
出張中で、これから顧客のところを数件回らねばならないのに、ここぞとばかり5冊ほど単行本を買って、重いカバンをぶら下げて顧客周りをしたものだ。
< V詣での日々 >
何人かの知人に早速Vの話をしたのだが、誰も知らなかったし、興味を持ってくれなかった。どうやら、ローカル企業で、たまたま僕が訪問したショッピングセンターにほぼ初めて出店したらしい。
さぁ、それからは出張してショッピングセンターを見学する時は核テナントの見学もそこそこに、Vに直行だ。ここの面白さは店によって揃っている漫画が違うことだ。チェーン書展にありがちな画一的な品揃えがない。だから、コアな漫画がどこの店にあるかわからない面白さが宝探しのように感じる。完全なV中毒だ。
案の定、このとんがった店のファンは僕だけではないらしく、やがてあちこちのショッピングセンターに出始めた。僕はもちろん狂喜乱舞である。Vで購入したコアな漫画は100冊近くあったのではなかろうか。
< 店舗の世代ギャップ >
ところが、ある時から徐々に僕のV熱は冷めていった。コアな物を買い尽くしたというところもあったし、新しい提案が少なくなってきたような気がしたのだ。Vでは店で推薦している本には袋をかけておらず、中身を読める。なので、「お、これは」という新しい作家のものは買っていたのだが、そういう体験自体が大幅に減ってきた。
Vへの興味が薄れて数年、経営者のインタビューがメディアに載っていた。やはり一時期のようなファンの増大はなくなり、最近は売上も伸び悩みがちだという。そしてそこに書かれていたその理由が興味深かった。「店長の高齢化」なのだそうである。
「高齢化」といったって、Vの店長は若い。身なりも如何にも今の若者という感じだ。でも、「高齢化」なんだそうである。その一例がアニメ。僕は「宇宙戦艦ヤマト」の初回放映を小学生でテレビで見て(視聴率は最悪だった)、中学生で再放送によるヤマトの大ブームが来、高校生の頃は「ガンダム」で、大学生は「風の谷のナウシカ」「ルパン三世カリオストロの城」というジブリ勃興期だ。逆に、「マクロス」「エヴァンゲリオン」には遅すぎた世代である。ヲタクという言葉は大学生から社会人始まりの頃に生まれ、その典型が長髪に黒縁眼鏡、ネルのシャツを着た宅八郎氏であった。
Vの経営者は言う。「アニメはもはやヲタクでもサブカルでもなく、日常なんです。それがいまだにVの店長にはヲタクでサブカルである。ここにマーケットとのズレが出てきてしまっている。」 なるほど。確かにアニメが好きであること、声優のファンクラブに入ること、コミックマーケット、どれをとっても万人が好む趣味ではないものの、オタクではない。
言われてみれば、いまだにVの店頭には「ナウシカ」が聖典のように並べられている。それはとりもなおさず、店長にとっての原典が「ナウシカ」だということだろう。つまり僕よりも10歳~15歳くらい若い世代だ。これでは今の若者の興味を取り込めない。
< アパレルとの共通点 >
長い間、流通・サービス業を見てくると、多くの企業は最盛期を10年以上維持できずにフェードアウトしていく。どんなに新しい業態を出しても、どんなに経営陣が代わっても、だ。その答えは、よく言われる「企業30年説」にあると思っていた。
しかし、どうやら必ずしもそうではないようだ。特に時流の流れを掴むことが重要な流通業、サービス業では特に。主力顧客の世代が変わっていくこと、これがとんがった店であればあるほど難しい。解決策は常に「自分のセンスは古いのではないか」と自問自答しながら、同時に新しいセンスを持り顧客と同世代の社員をMDやマーケティングの中心に据えることだ。
だが、言う易く、行うは難い。世代交代で時流から外れた店長はどうしたらよいのか?。そのままではコスト増だ。僕は解決策は簡単だと思う。世代事に店を作れば良いのだ。アパレルが世代別、テイスト別に新ブランド店を作るように。食品よりも多業態化は容易だろう。なにより人間は自分の経験してきたこと、思い出に弱い。ジェネレーションマーケティングに焦点を当てれば、もう一度Vはコアなとんがったお店になる気がするのだが。
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