< 加湿器 >
 寒い!。秋が中途半端な残暑だったので、今年は暖冬だと油断していた分、外に出ると「うぉぉぉー」と叫びたくなる寒さ。毎年、12月の年末休みに入るまでは寒いと感じることがなく、新年あけての初出社で「寒い」と感じることが多いのが僕のパターンなので、今年もどうやら寒いらしい。
 
 昨年も記録的な厳冬だったが、寒さよりも困ったのが乾燥だった。とにかく室内は乾燥して、バリバリのガサガサ。夜中に乾燥で鼻が詰まって眠れないというのは生まれて初めて体験をした。
 
 なので、家にある四台の加湿器は昨冬が終わった時点で大事に掃除をし、次の冬(=現在の冬)に備えて加湿フィルターなどの消耗品もあらかじめ買っておいた。準備万端、さぁ、来い冬。こんなに気の利く俺って、とっても良い夫、などと思っていたのだが….。
 
 11月に妻からの「加湿器出して」の声に、待ってましたと物置から取り出した。しかし、なんとそのうち一台がスイッチを入れてもウンともスンとも言わない。パイロットランプが点灯するから電源は来ているし、スイッチも効いているはず。しかし、肝心のファンが動かない。急いでネットで検索すると同様の症状が出ている人のブログを発見。どうやら、モーター自体がおシャカになったらしいと見当をつける。冬の間は24時間稼働でほぼ4ヶ月稼働、それを8年使っているのだからそりゃ、モーターくらいおかしくなるだろう。
 
< ネットも無力 >
 仕方ないので、再びネットで売っているところを検索。水にファンの風をあて、気化させるというだけのシンプルなものなので、子供や気管が弱い人に人気の「ボネコ」というブランドの加湿器。まぁ、どこでも売っているだろうと考えて検索をしたのだが、何と全く在庫がナイ。
 
 アマゾン、楽天、ヤフー、家電量販店系ネットショップ、その他その他。果てはメタ検索エンジンまで使っても、全て在庫切れ。そう、少なくとも新品をネットで買うのは不可能。消耗品であるフィルターは売っているのだけど、本体はどこにも売っていない。ということで、さっき見たモーター故障の人のブログに戻ると、なんと、生産中止。それどころか、「ボネコ」ブランド自体が従来とは別の会社に売却されてしまったようだ。
 
 急いでその譲渡先の会社のサイトにアクセスするが、来年モデルチェンジを考えているらしく、今年の販売量を売り切ったらお仕舞いだとのこと。つまり、どこを探しても売っていないわけだ。このモノ余りの時代に、「買えない」ものがあるとは。
 
 しかし、だ。諦めるわけにはいかない。なんてったって、この機種のフィルターは高かったのだ。しかも、既に開封して装着してから故障に気づいた。本体は諦められても、1回も使っていないフィルターを諦められるもんか、バカモノ。動け動け!、とスイッチを何度入れようと、ファンを手で動かしてみても、一切アウト。
 
< 修理って言葉 >
 仕方がない、修理に出すか。
 
 …と思ったが、待て。ブランド自体が売却されているから、これを製造販売していたメーカーが受け付けてくれるものか?。しかも、取扱説明書を読むと、製造中止から6年までは修理が可能であるとの注釈。逆に言えば、製造中止から6年以上経ったものは修理さえもできない。ええーい、くそのやくにも経たない家電メーカーめ。モデルチェンジばかりして、肝心要の時は修理も同じ機種の買い換えもできないのか。
 
 とはいえ、やはり数千円の大枚はたいて買った青い加湿器フィルターが惜しい。こうなりゃ、意地だ。聞くのはタダだと、その加湿器を作っていたメーカーのお客様窓口にメールをしてみた。6年経っているのは知っているが、修理はできないのか、と。まぁ、ほぼ99.9%無理だろうなと思いつつ。
 
 ところが連休をはさんで三日後に受け取ったメールに仰天した。なんと修理OK。「多分モーター部分の経年劣化と思われるので、部品費+技術費+送料で直せると思う」、とのこと。しかも、「送ってくれればチェックをして、修理見積もりを送ります」というので、大至急宅配便で送付。結果はバッチリ。8千円なにがしでなおるとの見積もりがきたので、修理依頼。一週間で修理品が送り返されて来た。フィルター代をプラスしても1万円そこそこ。新品の加湿器を買うよりも遙かに安い。
 
 この加湿器を作っている(というか、作っていた)デロンギというイタリアの家電メーカー、最近でこそエスプレッソマシーンなどでちょっと有名になったが、以前は加湿器やオイルヒーターという地~味な製品しかなく、家電量販店で扱っているところは殆どなかった。カタログハウスの「通販生活」が見いだしてきて、コツコツとマーケティングした結果、赤ん坊や小さい子供などのいる家庭に口コミで日本市場に浸透していったメーカーだ。それでも今なお、日本や米国や韓国の民生電機メーカーに比べれば以前として無名に近い存在だろう。
 
 しかも、加湿器はもはやスイスのメーカーに事業譲渡している。製造中止から6年経っているのだから、修理の義務もない。なのに、修理を受け付け、新品に蘇らせるというアフターサービス体制。素晴らしい。「良いものを長く使う」という精神がしみ込んでいるように感じるのは贔屓の引き倒しではないだろう。
 
< 彼我の差を知る >
 翻って、今の日本の家電、民生電機業界。
 
 大抵のものは修理するより、新品を買った方が安い。モデルチェンジも頻繁で、部品保存期限は6年とか8年とか決まっているけど、たいていは新品を買うことになる。
 
 酷いのは家庭用パソコンプリンターで、インク2セット分で本体が買える。つまり、本体=消耗品×2の価格だ。純正費じゃないインクを使うと製品保証が効かないというので、一年以内は純正インクを使って、一年経って補償期間を超えたら純正品の五分の一の値段で買えるサードパーティーのインクを使うのが普通になっている。要するに、消耗品で儲けるという手段。これほど消費者を馬鹿にした商売はない。ケニアの故・マータイさんが褒めて下さった「MOTTAINAI-もったいない」という日本の精神はどこに消えたのか。
 
 もっとも、メーカーだけの責任じゃない。売り手側だって壊れたというと「修理するより買った方が安いです」と平気で言う。実際そうだから嘘ではないのだけど、何かがおかしいじゃないか。多少値段は高くても良い製品を買って、長く使う、そういう美徳をいつから我々は忘れてしまったのだろう。
 
 使い切れないほどの紙ナプキンやケチャップを「むんず」と掴んで袋に放り込む米国系ファストフード店や、生ゴミも紙ゴミもプラスティックも乾電池もまとめて捨ててしまう英国のゴミ廃棄システムを我々は笑うけど、家電や車、家具などの耐久消費在をこれほど大事にせず使い捨てしているこの国の消費者はどうなのか。目くそ鼻くそ、だ。
 
 いずれにせよ、我が家のデロンギ社製ボネコ気化式加湿器1359Sは無事修理を経て、9年目の使用に入った。もともと静かな作動音だったのだが、修理で殆ど無音に近い。なのに、がっちり加湿してくれていて、水はしっかり減っていく。無駄な機能は一切ない。水を入れて、スイッチを入れ、二年に一度フィルターを変えるだけ。
 
 家電先進国と思っていた日本の民生電機各社が悲惨な決算となったのは、実は円安だけの影響じゃなかったのかなあ。ということは韓国や中国も同じ道をたどるのかなぁと。悔しいけど、欧州とアジアの差はここにあったのかと、ちょっと淋しい冬の夕暮れです。