< 総悲観を前提とした衆議院選挙 >
現在は2012年7月9日。衆議院選挙の投票日が16日なので、今のうちに書かねば選挙が終わってしまう…。ということで本日は選挙の話題。といっても、どの党がどうでああでという、どの政党が勝ちそうかということを予測するわけではないし、予測する知識もない。むしろ、その争点の現状認識が同じであることに興味を覚える。それは「日本将来に総悲観」ということだ。
今回の選挙の争点は大きくは、(1)経済浮揚策、(2)原発政策、(3)TPP(環太平洋パートナーシップ協定)、(4)消費税増税と社会福祉政策、であると言われている。そしてその背景には、「日本はこのままで経済的にも優位性を失ってダメ国家になってしまう」という共通認識がある。つまり、争点の出発点が、実はどの政党、候補者とも同じだ。
しかし、本当にそうなんだろうか。
< なんだか世間は動いてないかい? >
妻にとって金曜日と土曜日の朝刊のチラシチェックは貴重な作業となっている。とはいえ、価格チェックじゃない。重要なのはチラシの「紙厚」だ。家事で出てくる生ゴミや果物(今の季節ならばミカン)を食べた時の皮入れなどを捨てる「簡易ゴミ箱」をチラシの折り紙で作るため、「紙厚」のチラシは好材料なのである。
ここ2-3年のチラシの質の劣化は、そりゃもう悲惨なものだった。最初の兆候は両面印刷のチラシが減り、両面印刷になる。なので、我が家のメモ用紙は必然的に在庫が窮迫することとなった。これが3年くらい前。次にスーパーのチラシの印刷がフルカラーから単色刷りになった。特に平日チラシは完全に単色刷り。しかも、サイズは大判から半分になった。これが2年前。
で、最終局面のこの1年は、マンション、不動産とクルマのチラシの「紙厚」が一気に薄くなった。このあたりのチラシは水の染みも遅く、生ゴミを入れても破れないし便利なのだけど、3年前のスーパーのカラーチラシのレベルまで落ちているため、ちょっと水気のある物を入れると破ける。というわけで、4年前には週末チラシの約半分が簡易ゴミ箱向けとして我が家の引き出しにゴッソリ在庫されていたのだが、それは急速に少なくなり、今年に入ってからはいよいよ「その日暮らし」ならぬ「その週暮らし」でゴミ箱生産をしていたのだった。
ところが先週の金曜日、チラシを抜き取った妻が曰く、「景気良くなっているのかなあ」。おおよそ経済には興味のない妻の言葉だったので驚くて聞くと、秋以降、ゴミ箱適正の高いチラシが増えているという。なるほど、言われてみたら新築マンションと外車のチラシが増えている。この二つは「紙厚」チラシの代表格。民生電機の相次ぐ経営状況の悪化やそれに伴う地方工場、事業所の閉鎖など、ネガティブな話ばかりが目立っているはずの秋以降でこの状況は何なのだろう。
でも、実際、外車の販売台数は上期(4-9月)で純粋な外国車+9.9%、日本車の逆輸入-8.1%と純外国車は増えているのですね。ちなみに11月は+17.1%だそうです(出所:全自動車輸入組合)。また分譲マンションの着工戸数も4-9月は+0.5%と横ばいであったのに対し、10月は17.8%とドッカーンと増えている(出所:国土交通省)。確かに分譲マンションも「モデルルームオープン中」のものに加えて、「資料請求」はがきのついたチラシが目立つ。これは着工を始めたばかりの物件だ。多分、こちらは2014年の消費税引き上げを狙ったものだろう。
マネーの世界でもそれの兆候ははっきり出ていて、不動産投信、つまりReitの状況を示している「東証REIT指数連動型上場投信」の価格はこの通り。
運用をしているファンドマネージャーで、今年、不動産関連を組み入れなかった人は「負け組」だったそうですから、随分とマスメディアで流れている経済環境と違います。
< 外国為替がこんなに効くとは >
これまでも触れてきましたが、2012年は民生電機の失速が最も取り上げられたニュースでしょう。今も本屋では「何故◎◎社は間違ったか」とか「○○社、失敗の戦略」とか解説本が平台に置かれていますし、それに絡んで経営戦略モノの本が所狭しと並んでいます。「電子立国ニッポン」の敗北ですから、ニュースバリュー絶大。そりゃそうでしょう。
しかし、です。「自動車大国ニッポン」の敗北もありましたし、そこから立ち直った企業やいまだに頑張っている企業もあることはご存じの通り。フォルクスワーゲングループは素晴らしい成績を収めていますが、ゼネラルモーターズやプジョーシトロエングループはちょっとしんどい状況だと伝えられています。
お隣の韓国はサムスンやLGなどの民生電機絶好調で、日本にとっては垂涎の対象ですが、一方で外資系金融機関の撤退が続いているとも聞きました。確かに「竹島」ばかりが取り上げられる韓国ですが、新聞の片隅をよくよく見ると財閥系と非財閥系の企業業績格差は猛烈に開いています。それが韓国の学生達の名門大学志向を強めていることは以前と変わらず。
では、その理由は?。単純な話です。為替レートです。まずは下記のチャートをご覧下さい。上に行くほど円安、下に行くほど円高です。(出所:Yahoo!ファイナンス)
円ドルレート 1年間
恐ろしいくらいソックリです。2007年半ばには120円/ドルだったものが、70円台に突入すればそりゃ、国際競争力もなくなるでしょうよ。ある政治家の方が仰っていましたが、「各国とも表面上は協調しているようにみせかけながら、実は裏ではなんとか自国通貨安に持っていこうとしているのだ」と。その通りであります。
おまけに2007~2012年の間にリーマンショックが起こって米国は大変なことになるわ、一息つく間もなく欧州危機になるわ、韓国ウォンと中国元は統制管理されて絶対に為替高にならないわ、日本の政治はボロボロだわ、最後のシメには東日本大震災。ファンダメンタルズでも金融理論的にも円高が定着せざるを得なかった。
でも、これらが逆になったらどうなります?。つまり米国の景気悪化が緩やかに戻る、欧州危機はとりあえず「なぁなぁ」でナイナイしてしまう、中国が近隣と領海領地問題と軍事費拡大で軋轢を起こし、金融緩和も各国とももうゼロ金利しかないところまで落としてしまっているならば。そう、歯車は逆に動くのです。
衆議院選挙の結果がどうなるかは、アタシにゃわかりませんが、少なくとも自民党の安倍さんが金融緩和をやると言っただけでこれだけ株高と円安になるわけです(果たして金融緩和をこれ以上やって意味があるのかというツッコミは当然予想されるところです)。そうなってくると現金なもので、経営危機に陥りそうな民生電機企業に「資本出資してあげようか?」なんていう甘いささやきをするところも出てくるし、第一回で書いたように日本企業の株価は解散価値の半分以下なんですから、アクティビストも動き出す準備をしている。
短期のことは色々な要素でアップダウンするでしょうけど、中長期的に見ればやはり理屈があって物事は動いているわけです。
< 神はサイコロを振らない >
経済学は科学であって、科学でないというのはよく批判されるところです。マルクス経済学は、哲学と思想を出発点としていますし、近代経済学はモデルを単純化するために非常にシンプルな数式や需給曲線から議論を始めます。後に近代経済学は電子計算機技術の発達と数学理論との融合でファイナンス理論のような形になってはいきますが、モデルの限界があることはリーマンショックを持ち出すまでもなく、理解できることでしょう。また両者とも、「他人よりも良く見られたい、自分(達)が優れていると認められたい」という、心理学の認知的欲求については織り込むことが出来ませんでした。
むしろ、そうした難しいことよりも、いっそのこと「思惑」「現実として起こったこと」の結果である、いくつかのシンプルなファクターで考えた方が良いのかもしれません。それは、(1)神はサイコロを振らない、ということであり、(2)人生はあざなえる縄である、ということです。
(1)前者はアインシュタインが量子論の一部の理論に反論したときに使った言葉です。量子論では因果関係でものが起こるのではなく、「確率」でものが起こるという考え方をとります。でも、そうじゃない。「確率」を支配するはずの因果関係を探すのが科学だろう、と反論したのがこの言葉です(注:難解ですが「シュレディンガーの猫」で検索すると文系の僕にもちょっとわかった気分になります)。
(2)はiPS細胞でつい先日ノーベル賞をお取りになった山中先生の記者会見での言葉ですね。今やっていることがどうなる、右になるか左になるか、幸せになるか不幸になるかわからない。でも、興味をもって一生懸命やれば、少なくともそれは意味があることだし、少なくとも自分にとってはハッピーだよと。日本では古くから言われている言葉ですが、経済的に言えば、「コンドラチェフカーブ」なんてものに代表される「景気循環論」に繋がるところがあります。
エキセントリックで飛びつきたく理屈が情報洪水の中で出回り、そんな中でまたオカルトとかが流行りつつあるそうです。しかし、何事によらず原理はシンプルなもの。ちょっとズームアウトして物事を見てみませんか。先日の笹子トンネルの悲惨な事故は、日本のインフラ整備の悪化を示す顕著な例となってしまいました。果たして公共投資を一切やめてしまって、現実問題いいのか?。これもズームアウトして見る必要があるでしょう。
「神はサイコロを振らない」と量子論の一部に異を唱えたアインシュタインですが、現在は量子論において、「確率論的存在」があることは証明されつつあり、アインシュタインにはちょっと分が悪いようです。しかし、そうやって論理の改善、改革をしていくのが科学でもあります。今、アインシュタインが生きていたら、「神もサイコロを振るかもしれんなぁ」と舌を出して言うかもしれません。だとしても、因果関係をよりシンプルに、時にはミクロ的に、時にはマクロ的に探していくことは科学の真理。
選挙がどうなるかということと、その背景と、それらによって起こる影響をよりシンプルに考えてみる。忙しい師走の中でそれは結構楽しい作業かもしれません。