▼ 私の大事な仕事の一つに、企業や社会人へのリカレント教育(=学び直し)のプログラムコーディネイトがある。特に研修や人材開発で多くの企業の人事部や研修部、経営企画などの方々とお話をすることが多い。そして、誰もが頭を悩ませているのが、人材開発が思うように進まないこと、そして内向き文化の改善が進まないことだ。一見、この二つの悩みは無関係なようだ。しかし、実は海底でガッチリと釣り糸が海中で根がかりしているように表裏の関係にある。
▼ 例えば私の妻は日本語教師の資格をもって、週に一回個人レッスンをしている。相手は南米人のビジネスマンで、母国のために新しい事業を立ち上げるため、自分も語学学校で教員をしている。奥様は日本人、趣味は合気道と居合抜きという生粋の「日本大好き」イケメンだ(最近、真剣を購入したそうだ)。
▼ その彼が珍しく、先日のレッスンでこんなことを話したのよ、と妻が教えてくれた。それを聞いて僕は慄然とした。
▼ 「センセイ、ニホンカイシャ、ナゼ、キメナイ?、キメルノ、トテモ、オソイ。ワタシ、ジュウカイイッタ。デモ、キマラナイ。businessスルカ、シナイモ、キメナイ。businessハナシシナイ。チュウゴクカイシャ、ハヤイデス、スグ、キマル。businessハナシ、オオイ、とってもオオイ。チュウゴクカイシャ、タクサン、セイヒン、ワタシミセル。アレカッテ、コレカッテ、ヤスクスル、イイマス。デモ、ニホンカイシャ、ミセナイ。ワタシハ、buyerネ。オキャクサンデス。チュウゴクカイシャデハ、ワタシオキャクサン。カウカラ。デモ、ニホンカイシャデハ、ワタシ、オキャクサンジャナイ。ワタシ、カイタイ、ナノニ。チュウゴク、quality20%ワルイ。デモ、ワタシ、チュウゴクカイシャカラ、シナモノカウ、キメマシタ。ニホンオソイヨリ、チュウゴク、ハヤイコト、20%ヨリイイデス。」
▼ 冒頭に内向き文化の改善がなされないと書いた。まさしくそうなので、この生徒さんが仰るとおりなのだ。はっきり言えば、日本企業はまだ日本クオリティに胡座を書いている。もはやその差は20%しかなく、日本の意思決定の遅さや、実際の商談が進まないことや、新規顧客開拓に消極的なことなどでその20%は打ち消されているのに、だ。
▼ そして関連することは人材育成にも垣間見える。①外部の技術や経営資源を活用するオープンイノベーション、②M&Aなどで獲得した外部人材の活用や教育・人材育成、③財務・総務・人事と行ったコーポレート部門の外部招聘、④人材開発プログラムにおける他の企業との他流試合の重要性、などについて、殆どの日本企業経営陣は何もしようとせず、対応は後手後手に回り、結局内部だけで全てを解決しようとして自滅に向かっている。それが先ほどの生徒さんのような顧客となって、世界中で日本企業を見ているのだ。
▼ ここでふとこんなことを思い出した。日本におけるパスポート取得率は何%だと思うか?。僕は老人や子供もいることを考えると50%くらいかと思ったら、なんど23.7%(2019年)・5人に1人とのこと。上の①~④と結びつけるのは強引かもしれないが、外の世界を見ようとしないで「クールジャパン」「日本品質は世界一」と悦に入っている姿は、一時期話題になった「ゆでガエル」を想起させないだろうか。この風待食堂で「ゆでガエルふたたび」というコメントを書いた記憶があるが、「ゆでガエルみたび」だ。
▼ そして何より恐ろしいのは、日本や日本企業や日本製品がこう「外」から見られていることを、日本の多くの企業は「気づいていない」ことだ。研修をしていてしばしば聞くのは、海外支店で海外の顧客あら「顧客サービスでは世界一だと誉めて貰うが、商談では負けてしまう」という嘆き節である。仕方の無いことだろう。日本製品の品質の高さと顧客対応は間違いなく世界一だが、それが圧倒的な差で、意思決定の遅さ(いちいち日本本社にお伺いを立てなければならないなど)、多層重層的なプロセス、高品質であるがゆえに他国には勝てるという傲慢さを見逃してくれるほどには、日本クオリティは高くないとグローバルユーザーはもはや気づいている。気づかないのは日本だけ、だ。
▼ 安易な日本批判は好きではない。日本企業を分析してきた立場からは日本スゴイといいたい。しかしながら、何社もの大手企業に聞いても出てくる話は同じ、「日本はすべてにおいて金属疲労を起こしている」。