小売ビジネスにおける価格戦略において、Hi&LoとEDLPといった2つのアプローチ手法についての対比がしばしば論じられている。
端的にはHi&Loとは文字通り通常の販売価格を一時的に値下げし、特売価格とすることで顧客の需要喚起を促すアプローチであり、逆にEDLPはValue for Money(顧客が価値を感じ許容できる低価格)の観点から継続的に価格訴求を行うことで、いつでも同価格で購入できるといった安心感を供与するアプローチである。
今回はそれぞれのアプローチにおける優位性、留意点について、顧客コミュニケーション、店頭オペレーション、商品調達・サプライチェーン等、いくつかの視点から考えてみたい。
第一回では、まずはHi&LoとEDLPといった2つのアプローチ手法における顧客コミュニケーション視点からの考察について論じていきたい。
■顧客コミュニケーション視点
【Hi&Lo型アプローチ】
Hi&Lo型アプローチにおいては、特定商品の一時的な値下げ行動自体を顧客に認知してもらうことが重要であることから、チラシ等の媒体を通じ、商品価格がいつ、いくらからいくらに値下げされるかを伝える必要がある。
また顧客の購買意欲をより一層高めるために、極端な低価格(Deep Discount)での日替限定特売(Daily Special)、タイムセール、数量限定等の告知を併せて行うケースも多々見られる。
店頭では特売スペースにおける大量陳列をはじめ、モジュラーエンド(主導線に接するエンド什器)等を活用した多箇所展開やサイン・POP等を専用に設置することで顧客が認知しやすいよう売場環境作りを行う。
Hi&Lo型アプローチは、シーズンやイベント・モチベーションをベースとして「今がお買い得」といった形で意図的に需要のスパイクを創出することで、大幅な客数増や通常日販の数倍~数十倍の数量販売を実現することも可能である。
一方で特売期間終了後の需要減退を促すことにも繋がるリスクを併せ持つことも理解する必要がある。特に調味加工食品にみられるような購入インターバルが比較的長いストック型商品においては、特売待ちで通常時に買い控えるような顧客購買行動もみられる。
極端な話、特売対象アイテムによっては、特売期間以外は通常価格で訴求するモジュラーが倉庫と変わらない状況になりうるという点も考慮する必要があるということである。
またCherry Pickerと呼ばれる特売商品だけを競合店を含めた複数店舗で買い求める顧客が増加する点も留意する必要がある。
本来期待されているHi&Lo型アプローチで集客し、特売商品以外の同時購買を促すことによる売上・利益増効果を薄めることに繋がる懸念も否めない。
こうしたケースも含め、Hi&Lo型アプローチは一時的な売上効果をもたらすが、店舗や小売ブランドに対し、顧客ロイヤリティを高める効果は限定的であると思われる。
さらに後程触れていくが、Hi&Lo型アプローチが集客、売上のみならず利益、コスト面を含め業績全体にどのくらい寄与しているかを総合的な観点から理解することが重要である。
特に留意すべき点は、こうした理解がない中で、より一層集客効果を高めるために特売頻度や対象アイテム数を増やしたり、さらなる低価格の特売を実施することは、ビジネスとしての体力を損なう懸念も大きいと思われる点である。
見かけの集客、販売数量増という点では、表現は適切ではないがHi&Lo型アプローチはある種の麻薬的な要素を秘めていると感じられる。
【EDLP型アプローチ】
EDLP型アプローチにおいては、Hi&Lo型アプローチが一時的な値下げ行動の顧客認知を促すことに対し、いつでも同価格にて購入できるといった安心感を「Value for Money(顧客が価値を感じ許容できる低価格)の観点からの魅力ある価格」として認知してもらうことが重要となる。
また単に個々のアイテムレベルで競合店やマーケットと比べ、安い高いという視点だけではなく、顧客が日常のショッピングで購入する購買頻度の高いアイテムを中心としたバスケット・プライスを重視する点に特徴がある。
例えば1か月間買物した金額が、競合店で同様に買物した場合よりも支出を抑えられるといったある種消費支出的観点からの認知と信頼感の醸成が中長期的に重要なポイントとなる。
EDLP型アプローチにおける顧客認知にあたっては、Hi&Lo型アプローチのように毎週特売のタイミングに合わせてチラシ等で特定商品の値下げ告知を行うのではなく、「顧客が欲しい商品をいつでも魅力ある低価格で提供する」といったようなPhilosophy的なメッセージを定期的かつ継続的に伝えることが必要となる。
但し、顧客が商品購入の意思決定をする上で、価格コミュニケーションは不可欠であることから、「Value for Moneyの観点からの魅力ある価格」を実際いくらに設定するかという点が非常に重要であり、難しいポイントとなる。
特に顧客が、購入頻度が高く商品価格自体を十分に熟知しているKVI(Known Value Item)と言われるアイテムの価格設定には留意する必要がある。
またEDLP型アプローチにおいては、定番商品をEveryday Price(通常価格)で販売することが主体となることから、いかに顧客ニーズを満たし、快適なショッピング体験を提示するかといった点を含め、品揃戦略とそれに基づくモジュラー構築が重要な鍵となる。実際にEDLP型アプローチを主体とする小売業においては売上高の約80~90%が定番モジュラーから創出されている。
一方で店頭においてはEveryday Price、定番モジュラー主体がゆえに、顧客に売場の賑わい、変化やフレッシュ感を伝えづらい側面もある。
EDLPの先駆的小売業であるWal-Martでは顧客需要が高まるシーズンやモチベーション・タイミングに合わせて、Rollback/Save Even Moreといった価格プログラム投入やプロモーションスペースやモジュラーエンドを活用し、顧客がFun Shoppingを体感できる売場環境作りを柔軟に実施している。