▼ ある経済紙のオンライン版で、生活必需品のメーカーが納入価格の値上げを小売店に申し入れたところ、当該メーカーの商品を全部売り場から撤去することに決めたという報道がなされた。記者はこの現象の背景には、メーカーと小売業の価格決定権争いがあり、昔からあることだ、と。むしろ、そこまでして安売り競争をしなければならないほどの大量出店を許してきた当局に問題がある、という締めで記事は終わっている。
▼ 確かに大店法は当初の意に反して、国と地域の許可を得て一度出店してしまえば近隣に他社は出店できなかったし、それが後の大型スーパー、GMSという日本特有のフォーマットの盛況を呼んだことも事実だろう。
▼ しかしながら、大店法は日米構造協議でやり玉にあがり徐々に規制は軟化し、2000年には大店立地法と名前を変えて、事実上自由出店競争となった。過度な出店でシェアを取る事だけに汲々とし、そのためのツールとして取引先に無理な価格凍結や値下げ、協賛金の要求をするようになった小売業は、オイルショックで消費者の生活防衛のためにと身を削って価格凍結宣言をしたあの頃の姿とは似て非なるものだ。
▼ 日本の経済・金融政策の迷走と地政学的な問題から、デフレーションに頭が慣れきった日本がついていけない原材料引き上げやインフレーションが起こっていることは誰もが知ることである。そしてまたエネルギーにしろ、食料品にしろ、輸入に頼らなければならない状態に日本国があることもまた常識だ。そうした中、メーカーにはメーカーのステークホルダーにきちんとした対応をする義務がある。それを考えての値上げ要請だろう。
▼ そう言うと小売業にも小売業のステークホルダーに対する…というのかもしれないが、筆者の私見では現金商売でキャッシュフローが途切れることはないという安全圏にいる産業が、檻の外から檻の中の大きな動物を棒で突っついていじめているようにしか見えない。そして果たしてそうすることが日本の国益に資することなのだろうか。
▼ プライベートブランドにしてもそうだ。小売業の多くはプライベートブランドを企画して消費者の生活を防衛していると胸を張る。本当か?。プライベートブランドの中には、決して大手とは言えないメーカーに売上高をエサに無理難題を言わせて作り、そこに企画どころか、丸投げしているだけのものも少なくないのではないか。
▼ 食品メーカーの担当だった先輩アナリストに聞いたことがある。「自社ブランドを売り込みに行く時に、セブンイレブン向けに作っているプライベートブランドを持って行くんだ」と。奇妙な話なので説明を伺うと、「セブンイレブン向けのプライベートブランドにはこれが入っていないが、自社ブランド品にはこれが入っている。入っていないセブン向けプライベートブランドでこれだけ美味しく人気があるのだから、是非、自社ブランドを置いてみてくれ。売れる自信がある」と商談をするのだそうだ。なるほど。
▼ 今や人材不足に加え、社内の知識や知恵だけでは競争に勝てない時代が来ている。だから、心ある企業はこぞって内部研修のOJTではなく、外部との他流試合ができるOFF-jT研修に人を派遣している。しかし、多くの小売業はいまだに「XXX大学」と称して自社の歴史とやり方を若い世代に押しつけることばかりに夢中で、世界で何が考えられているかについて学ぶ機会を与えてはいないところが殆どだ。まさに「井の中の蛙」。そしてその次に思い起こされる言葉は「ゆでガエル」だ。
▼ いつまで日本の小売業はこれを続けるのだろう。知見ラボの吉岡常務研究員に教えていただいたAmazon Freshの店と仕組みと考え方には背筋が凍った。こんなハイテクな店が出てきたら、日本の小売業の多くは一発アウトだろう。そしてそのこともコンサルタントや知識を持つ人から聞いて知っているであろうに、日本の小売はかわらない。
▼ 日本の携帯電話は確かにガラパゴスだったが、それでもインターネットに接続したり、携帯電話でネットバンキングをするという爪痕を残すことができた。しかし、日本小売業というガラパゴスはどういう爪痕をこの産業に残せるのだろう。「おもてなし」と「メーカーいじめの値下げ」?、冗談じゃない。