< 新聞に載った小さな記事 >
新聞を読んでいたら、小さい記事が載っていた。この消費の厳しさから各スーパーマーケットは経費の徹底的な削減を図ったいるのだが、その一環として、所属業界団体をかえる企業が増えていると言う。
一番古いのは1958年に設立された日本セルフサービス協会であるが、いわゆる政治力を持って業界の地位向上などを図ってきたのは1967年に設立された日本チェーンストア協会である。うろ覚えなのだが、初代会長は故・中内功氏ではなかったろうか。
そんなチェーンストア協会から脱退を行う企業が増えている理由は、記事によれば年間の会費の高さとのこと。正確な数字は失念したが、チェーンストア協会の会費は、新日本スーパーマーケット協会よりもかなり高額であったようだ。
先ほど述べた日本セルフサービス協会と1982年に設立された全国スーパーマーケット協会が統合し2009年に誕生したのが新日本スーパーマーケット協会。チェーンストア協会は、日本のスーパーの黎明期を支えたのがいわゆるGMS業態であったことから、GMSがメンバーに入っているが、スーパーマーケット協会はその名のごとくスーパーマーケット、いわゆる食品SMが主力メンバーとなっている。
コストという観点で考えれば、業界団体に加盟するために支払金額も馬鹿にはならないだろう。それを考えれば確かに「より安くて、業務に密着する団体を選ぶ」というのは合理的行動だ。しかし、本当にそれが日本のセルフスーパー業界の全体最適に繋がるのかと考えると、素直にYESとは言えないと考える。
< セルフスーパーの産業化を支えたもの >
チェーンストア協会は日本百貨店協会や日本フランチャイズ協会のと同様に、企業サイドからの販売額も毎月開示しており、色々な統計で使われている。また、消費税(当時は売上税)の反対活動や外税内税に関する研究、出店自由化による社会への影響などの研究など多彩な意見発表をしていた。
残念ながら日本でセルフスーパーマーケット形式という店舗が出現したとき、口の悪い人々は「スーッと出てきて、パッと消えるからスーパーだ」とあざ笑ったそうだ。新興企業産業は何でもそうだが、登場当初は様々な誹謗中傷を受ける。
私見だが、それを乗り越えてセルフスーパー業界が産業化になり得たのはいくつかの団体のおかげだろう。
ひとつはキャッシュレジスター利用を浸透させるために近代流通業の運営を啓蒙したNCR。まだ個人商店の段階に過ぎなかった商店主を泊まりがけの合宿で研修会をするように呼びかけた雑誌社「商業会」。読売新聞の記者で米国の流通事情から流通理論・近代的経営指標の見方を啓蒙したペガサスグループの渥美俊一氏。小ロットでは鼻も引っかけてくれなかった大手メーカーとの取引を目指してスケールメリットと近代経営の勉強会を行ったAJSやCGC、ニチリウなどの共同仕入れ機構。そして業界団体としての政治力を持つための日本チェーンストア協会。
企業は当然それぞれがライバルだ。自分のノウハウや経営数値はばらしたくない。にも関わらず、そうした個人の思惑を超えて、他の産業でもあまり類を見ない結束を見せたのは、より高いレベルの「産業」として認められたい、認めさせたいという経営者の想いだったろう。「スーッと出てきて、パーッと消える」産業などではなく、消費の根幹を支えるものであることを認めさせねばと言う意志だったと筆者は信じている。
その成果が業容の拡大のみならず、経団連に副会長を二人も送り込んだという実績だ。経団連や経済同友会といった経済団体をどう思うかについては様々な意見があるだろう。しかし、「スーッと出てきて、パーッと消える」と揶揄された産業が、日本における重要な産業として認められたひとつのマイルストーンであったことは誇るべき事実だ。
< 産業化を捨てて地方豪族に戻る業界 >
ところが、最近のセルフスーパー業界を見ているとせっかく手に入れた産業化をみすみす失っているように思えてならない。少々荒っぽい言い方を許してもらえれば、地方豪族が産業化のために「小異を捨てて大同についた」ことで現在の業界があるのに、再び地方豪族に戻ろうとしているように見える。
確かにチェーンストア協会の会費は高いのかもしれない。それに見合ったサービスを受けられないのかもしれないし、古くから加入している企業やメンバーと新メンバーに軋轢があるのかもしれない。 いかし、消費税が二回にわけてあげられることが決まり、今の内税方式ではその引き上げ分をセルフスーパーが負担させられかねない中で、正々堂々とどうすべきかを言える政治力、交渉力を誰が持つのか?。
このままでは再来年の引き上げの時に、「消費税引き上げ分還元セール」という名目で抜け駆けする企業が続出するだろう。そしてその一年後さらに2%の引き上げが来る。合計5%のこれら増税分を飲み込めば、せいぜい営業利益率3%が平均のセルフスーパーは間違いなく赤字企業が続出する。
健全なる企業間競争は必要である。しかし、同時に産業を守り、顧客を守り、企業を守り、従業員を守るためには、政治力は必要となる。セルフスーパー業界はあまりにその政治力に対する認識が疎すぎるのではないのか。そういう不安を筆者は捨てきれない。
< 共通言語を失い、失わせているのは誰か >
筆者のとても重要な知人で、セルフスーパー業界に勤務する人がこんなことを仰ったことがある。
「みんな共通言語を失ってしまって、バラバラに動き始めたんだよね」
同感だ。同じ言葉でも意味が違うことはよくある。「粗利益」と「荒利益」では意味が違うし、同じ「総利益」でも「売上総利益」か「営業総利益」かで意味は変わる。しかし、今のセルフスーパーは「ストアブランド」も「プライベートブランド」も「ダブルチョップ」も違いはない。要は、余っているメーカーのラインで物を作らせて、違う風袋でラッピングする、それだけだ。小売業だからできる商品開発のアイディアもなければ、生産管理工程を学ぶこともない。よく言えばそれだけ力をつけたとも言えるし、悪く言えば考える頭を無くしたとも言える。
今のセルフスーパー業界は「共通言語」を失っている。そのことのしっぺ返しは、過剰能力の縮小が起こる過程ではっきりと見えてくるだろう。
豪族化し、求心力を失うことを密かに喜んでいる人間が必ずいる。それこそが、先人達が「小異を捨てて大同について」まで闘おうとした相手である。にも関わらず、その相手の掌の上に転がされて、自分たちが大物になったように勘違いしている喜んでい人もいるような気がする。
60年かけて作り上げてきた産業化の道を逆戻りさせるかどうかは、この業界に属する人たちの意識にかかっている。