《 絡まったテグス糸をほぐす 》
 前回は常々考えていた「組織はなぜ自壊するのか」について思うところを書いてみた。しかし、やはり大きな壁であり、とても一度では表現できそうもない。

 「何故、組織は自壊していくのか」ということの要因は、僕の頭の中では「釣りの時のテグス糸が絡まって、バスケットボール大になってしまっている」状況だ。それを一個ずつ解きほぐしていき、この「組織の自壊」もシリーズ化したい。

 尊敬するとある経営者によれば、「何を悩んでおる。絡まったテグスは『チョッキン』と切ってしまって、新しいテグス糸に換えればよろしい。どうせ、100-150円くらいのものだ。」だそうである。確かにそういわれてしまえば元も子もないのだが、絡まったテグスをほぐすことが仕事なのでご容赦を。

《 内部調整が組織を殺す 》
 「大企業よりも中堅中小企業の方が破綻確率が高い」、これは世間で流通している「嘘」の一つだと僕は思う。むしろ、大企業の方が道を誤ると確実に破綻していく因子が増えるように思う。その理由は、内部調整の多さだ。

 「オーナー企業よりも組織経営企業の方が近代経営である」、これも「嘘」だ。その理由はやはり内部調整がオーナー企業の方が少ないからだ。

 色々な情報から類推するに、日本企業の役員・従業員の労働時間の70~80%が「内部調整」に使われているのではないか、それが僕の正直な実感だ。まず、自分が報告の義務があり、評価者でもある「レポートライン」が一人ではない。二人、三人、….、下手をすると関連する各部署の中間管理職と役員全員が「レポートライン」の時さえある。

 組織の基本はピラミッド構造である。しかし、複数のレポートラインへの報告、調整の必要があるとなると、意志決定は成立しない。A役員は賛成でも、B役員は反対である時、その議案は進行を停止するからだ。

《 決めないための会議 》
 停止した議案は再度、チームに差し戻される。で、「すりあわせ」と呼ばれる会議になるわけだが、ここで何も決まらない。決まるわけがない。B役員が反対したから差し戻された事案を、職階の低い従業員がいくら議論しても決められるわけがない。本来は役員同士が意見が違うならば、役員会やそれに準ずる場所で意志決定すべきなのだ。しかし、そこまでの意志決定の腹も据わっていないB役員は意志決定を回避し、チームに差し戻すのである。

 つまり、「何も決定しないで、逃げること」が日本の会議、そして経営者の「あるべき姿勢」なのだ。日本企業の意志決定が遅いのは当然である。「決定しないための会議」であることが善なのだから。

《 報酬は意志決定リスクの対価 》
 外資系企業にも勿論「社内政治」はある。特に本国から来ている社員にとっては、如何に上手に振る舞って本国に昇進して帰るかは最大の重要事項だ。

 ただ、多くの日本企業と一つ違うのは、「自分のやり方を出すことで成績を上げれば認められる」という意識の浸透度合いだ。よって、意志決定は最終的には自分に与えられた「特権」であり「義務」である。そして報酬は、この意志決定リスクを取ることの対価だということが明確に理解されている。

 今回の株主総会シーズン、とある企業で株主からこんな質問が飛んだという。「取締役の方々、みなさんにご質問いたします。終わった年度にあなた方はどんなことをやり、どういう成果を得ましたか?」。壇上の取締役は皆、黙り込んでうつむく中、議長である社長が当たり障りのない説明でお茶を濁し「貴重なご意見ありがとうございました」で議事進行したそうである。

 社長以下、この取締役達の面の皮の厚さもたいしたものだが、なによりも「分かりました」と言って質問をそれでやめたその個人株主の方が100倍すごい。なぜなら、「答えられっこない」と分かった上での確信犯としての質問だからだ。

《 決める醍醐味 》
 外資系企業で現地採用のローカル社員は昇格の機会をあまり与えられていない。だから、「意志決定者」への昇格を勝ち取るために転職を頻繁にする。それだけ「意志決定」の魅力は人としての生き甲斐にとって大きい価値がある。

 にも関わらず、「意志決定しないこと」が美徳である一番の安全策であるという考え方は個人的には受け入れがたい。中堅中小企業、オーナー企業の方が良いと冒頭に述べたのは、「意志決定」者がだれであるかがシンプルだからだ。もちろん、それとは別の問題が多くあることは知っての上だが。

 「決めるリスク」よりも「決める醍醐味」を味わえる組織を形成していかなければ、自壊リスクは高い。

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