《 決算発表における二つの注目点 》
震災から三週間が経ちました。今なお日本中で混乱が続いておりますが、季節は冬から春に確実に移っています。東京ではいつの間にか梅が終わり、桜が主役になりつつあります。
そうした中で、小売業の2月決算発表が始まりました。該当期の決算では東日本大震災の影響は受けていないものの、2011年度業績予想と震災による業績への影響をどのように発表・開示するのかというのが、今なお多くの経営者、経営企画、そして広報・IR担当者の悩みの種であります。その意味で、先週の数社の決算発表のあり方は一つの「標準型」になり得るのではないかと思います。
《 業績予想は仮置きでOKのムード 》
まず2011年度(現在進行中の決算期)の業績予想ですが、私の知る限り業績予想を開示しないという企業は今のところ無いようです。売上高(営業収益)、営業利益、経常利益、当期純利益、一株あたり当期純利益を開示するという方法は変わっていません。
予想の前提ですが、(1)従来の本年度予算をそのまま開示したところと、(2)従来の予算に知りうる限りの「色」をつけたところの二通りに分かれます。しかし、いずれも「今後、第一四半期、第二四半期の状況を見ながら、予想をアップデートする」と仰っておられます。つまり、大震災の影響を現時点で100%業績予想に反映するのは不可能であるとハッキリと述べています。よって、これから決算発表するところもこれにならうところが大勢であると考えて良いと思います。
今なお営業状況や被害規模が不確定である中で、新たな予算・予想を作り込むことは企業にとって大きな負担になりかねない状況でしたので、「今の段階でわかるのはこれだけです」と先例をを示してくださったことは良かったと思います。メディアや株式市場の反応を見る限り、そういう開示のあり方が受け入れられていると私は判断しています。
《 「しまむら」さんの決算開示が良き参考に 》
次に震災による業績への影響ですが、これは衣料専門店の「しまむら」さんの開示がとても参考になると思われます。
ポイントとしては、(1)当初の被害店舗数と決算発表時点での復旧状況、(2)現時点で把握できる(1)による特別損失計上予想金額、(3)特別損失計上予想金額のおおよその内訳、が開示されれば納得を得られるということです。一方で売上高や値入率(粗利益率)への影響は、あまり明示的なものである必要はなく、業績予想同様に今後の四半期決算ごとにアップデートしていけば良いことでありましょう。
《 一品単価下落と消費者価値観変化が今後のポイント 》
さて、ごく数社ですが、終了した2010年度決算を拝見しての印象。
客単価は依然として前年度対比↓です。ただ、その下がり方は▲0.5%~▲1.5%程度で、従前から申しあげているように底なし沼的な価格下落は止まりつつあるようです。ただ、客単価を分解すると買い上げ数量↑・一品単価↓であり、この内容が企業側の戦略的なものなのか、消費者志向なのかはこれからの決算発表本格化をみてからでないと判断できません。
値入率、粗利益率は前年度対比↓もしくは→です。少なくとも悪化した印象はありません。特に衣料品は需要減退から、かなり格下げロス(値下げ損)には注意を払ってコントロールがなされたようです。その一方で、機会ロスが増えたという反省も聞かれました。もっともこのバランスは両立させるのが極めて難しいと思いますが。
最後に現在進行年度の見方ですが、大震災による二点の影響が不透明とする点では各社とも一致します。それは、(1)直接的な売上減少、(2)消費行動の変化です。特に(2)は単に所得や先行き不透明で財布を引き締めるというだけではなく、「人にとって何が幸せなのか?」という根本的なことを大震災によって消費者が自らに問い始めたのではないかという「価値観」の変化が挙げられます。中長期的な経営戦略にとっては、(1)よりも(2)の方が重要であるという意見も予想外に多くお聞きしました。これも今週以降の決算発表における重要な定性的ポイントであります。
まとまっておりませんが、取り急ぎの印象ということで。