《 今週は思いっきり陰鬱な話です 》
先週、先々週の「余談」では楽観的・前向きな見方を申し上げました。証券会社には古くから格言があり、「人の行く裏に道あり花の山」と言います。意味は「世間の潮流とは逆バリをせよ、そうすればもうけられる」と。世間は総悲観論ばかりです。ですから、あえて「裏」、つまり楽観論を書いてみたというのが先週、先々週です。
で、今週はその逆で、世間の流れに身をまかせ、思いっきりネガティブな話をしてみたいと思います。ともに陰鬱な気分になっていただき、酒がまずくなっていただければ幸いです(笑)。
《 「もはやデフレではない」 》
一つ目の危機要因は「原価高」。年が明けてから、特にマスメディアで報道されることが増えてきたリスク要因の一つです。
ここ3年間ほどの消費関連産業は「低価格ブーム」であったことは疑いのない事実です。「270円居酒屋」「100円ショップ復権」「プライベートブランド」「第何次かのディスカウントストアブーム」「開発輸入」……、例を挙げるとキリがありません。
これらの「低価格ブーム」を支えてきたのが、(1)中国を中心とする東アジアからの豊富な調達ルート、(2)円高、(3)長引く景気低迷、(4)消費関連産業の過剰能力、です。しかし、これらがことごとく逆の方向に行き始めています。
まず(1)の東アジア調達ルート。中国からの安価な衣料品調達はどんどん難しくなりつつあります。共産圏からの輸入を制限していた西側諸国が制限を撤廃したため、とんでもないロットでの発注をかけてくるようになりました。おまけに品質へのウルサイ小言も言わない。日本のアパレル産業は、「小うるさいくせに、小さい客」として嫌われていることは以前に述べました。これと同じことがほかの商品分野でも起こってきています。
(2)円高。今現在ドル円は82.9円ですが、「これが79円になる確率と87円になる確率とどちらが高そうか」という賭をしたならば、「87円」と答える方が多いでしょう。直感的に「財政危機と少子高齢化に悩む日本の通貨が高いというのはオカシイ」と思われる方は少なくない。円高よりも円安、であれば輸入価格はあがります。
ここにジワジワと迫り来て、足下まで押し寄せた泥水が「商品市況の高さ」です。
先週、コーヒー豆の価格が上がったことが記憶に新しいですが、それ以外の大豆、コーン、原油、綿花などなど、ほとんどの商品市況が異常な値上がりをしています。商品市況の代表指数であるCRB指数を見ると、2008年年初350程度→2009年年初210程度(リーマンショックのせい)→2010年年初250程度→2010年年末340程度とリバウンドしています。つまりリーマンショック前の、あの「商品市況高」の時代が再来しているわけです。
これらを総合すると出てくる結論はひとつ、「この原価高要因が満載の環境で、低価格路線がもつわけはない」です。多くの企業はこれらの原価高要因を販売価格に転嫁しようとするでしょうが、転嫁できるまでのタイムラグがあります。このタイムラグが製造原価・売上原価を引き上げ、企業収益を圧迫することは火を見るよりも明らかです。
《 カネ余りからカネ詰まりへ 》
二つ目の危機要因は「資金繰り難」です。
ご存じの通り、リーマンショック以降、世界中の中央銀行は金利を徹底的に下げて、お金を借りやすくしました。しかし、企業のバランスシートが傷んで、借りるどころか一刻も早く借金を返したい企業経営者はバランスシートの健全化を行っているところです。お金はどんどん余り、その資金が投資・投機として商品相場に流れているという側面もあります。
では、これからもお金は簡単に借りられるのでしょうか?。答えはNOだと思います。その引き金はいくつかあるのですが、私は中でも、(1)会計制度の変化(IFRS導入・BIS規制)と(2)地方金融機関の疲弊が一番大きな要因になるのでは、と思っています。
(1)は一昨年からさんざん騒がれていることです。お金の貸し手である金融機関に絞って言えば、リスクとなるのが「金融機関同士の持ち合いで持っている/持ってもらっている株主資本の中には、株主資本から除外されて考えられるものが出てくる」可能性があるということです。
簡単に言えば、貸し倒れが高そうな債権を持っている銀行AとBがあるとします。BIS規制といって、金融機関は十分な自己資本(=株主資本)を持たなければなりません。でもちょっと貸し倒れしそうな債権を持っているAとBは、お互いに株を持ち合うことで自己資本を厚く持つことで合意。表面上はこれで一丁上がり!、問題解決!、です。
でも、ちょっと待ってください。なんですが、なんだか変ですよね?。そう、銀行の健全性を測定するためであれば、自己資本の中からこうした持ち合い部分を除かなければなりません。そうすると、BIS規制をクリアできない銀行が出てくる可能性があります。
(2)はジワジワと日本で起こりそうです。地方金融機関はそこで居住する人たちから預金を預かって、営業原資としています。でも少子高齢化と不況の中、預金は今後増えず、むしろ徐々に引き出されて減るでしょう。それは営業原資が減ることを意味します。
営業原資が減れば、貸出先に対する態度は厳しいものになるでしょう。預金は減るわ、貸し出しは厳しくなるわ…..地方産業にとって資金繰りは難しくなる方向性に向かう可能性が高いでしょう。しかも、消費産業の毛細血管である小売業やサービス業だけではなく、中間流通業や製造業にまず波及しますので、「メーカーや問屋からの信用供与」、つまり「現金仕入れじゃなくても、手形仕入れでいいですよ!」という穏健な態度が変わる可能性があります。
そして毛細血管に血が流れなくなれば…..細胞は壊死します。
《 部分最適ばかり追う日本政治 》
最後の危機要因は「国家財政」です。
よく数字を聞いてもピンと来ないことを「国家予算の金額を聞いたときのよう」と例えます。しかし、2011年の日本の国家予算を聞いて、余りにも身近にわかりすぎて背筋が寒くなったのは私だけではないでしょう。
過去最大の大型予算、でもその調達は半分が税収・半分が借金。しかも、日本の借金は1,000兆円までに増えているため、1%金利があがれば10兆円の支払い利息アップ。92兆円の支出に10兆円というのは約10%強ですから、金利が上がれば借金をして補うしかありません。まるで消費者ローンの金利を返すために新たな消費者ローンを借りるのと同じです。そのうち「ヤミ金融」に手を出すかもしれません。
これを解決する方法は一つ、「入りを増やして、出を減らす」ことです。でも、「入りを増やす」際に、すでに税率50%を支払っている高額所得者の税率を上げて補おうとしているのが日本です。そもそも50%税率を支払っている高額所得者なんて全体の0.5%しかいません。それよりも消費税の引き上げを考慮した方が現実的です。
「出を減らす」も、「仕分け人」では全然財源を開発できなかったことを見るとあまり期待できそうもありません。「入りを増やす」も「出を減らす」も既得権益を持っている人たちのフトコロに手を突っ込まないとできるわけはないのですから、政治主導はおおよそ無理ではないかと考えてしまいます。おまけにマスメディアがそういう風潮を煽りますしね、「消費税率引き上げなんてとんでもない!」と。
日本を本当に元気にするのであれば、「才覚で成功して儲けた人から、ゴッソリとる」という発想ではなく、「才覚で成功して儲けようとする人がもっと増える環境にする」が先にあり、そこで「広く税金を徴収する」のが全体最適でしょう。これでうまくやれない色々な問題は社会保障でカバーをすればよいのです。
しかし、こういう悪しき平等主義・ポピュリズムが、「やるだけ損だよね~、適当にやって社会保障で食っていく方がいいよね~」という雰囲気を醸成しないか不安です。もっと怖いのは、「日本人であること、やめよっかぁ?」と考える若い世代の出現です。彼らは外国人とコミュニケーションすることに何の違和感もない世代ですし、「読む・書く」英語ではなく、「聞く・話す」英語ができます。「あ、日本、もう結構です。サヨナラ。」となってもおかしくはないように思いますが。
どうでしょうか?、思いっきり「暗く」なっていただけたでしょうか?(苦笑)