新春のお慶びを申し上げます

《 愚痴は駄目です 》
 人間一般の性癖なのか、それとも私自身の根暗な性格のせいでしょうか、突然、前にあった恥ずかしいことや失敗を思い出しては後悔をすることが多いように思います。高校時代に書いたラブレターの中身から、最近の仕事の失敗まで。まぁ、いったん思い出すと次々と出るわ出るわ。悪い記憶は悪い気分をさらに助長するものであります。

 で、そういう思い出は吐き出さないと腹にたまる一方なので、妻やら友人やらに話すのですが、やはり他人のネガティブな話というのは聞いていて面白くはない。愚痴は言う方は楽しくても、聞く方はたまらないというのが万国共通でありましょう。

 一時期、そうした失敗や恥ずかしいことを書き出す「愚痴日記」も書いていました。その頃は往復三時間の通勤時間だったので、たっぷり反省も書く時間もありましたし。

 ところが、他人のネガティブな話ではなく、自分のネガティブな話も書けば書くほど、自分の「駄目さ」加減を強く認識するので、どんどん気分が「どんより」してきます。本来はそういうマイナス感情を吐き出して、明日の糧にしようというのが本筋であったはずなのに逆効果です。

 まぁ、これは当たり前でして、受験生の頃に英単語やら古文の文法やらの「暗記物」をやるときは、まずは手で書くのが一番効果がありました。それと同じで、ネガティブな、恥ずかしくて、隠しておきたいことをわざわざ文章にして書くわけですから、マイナス思考がさらに強く頭にインプットされるわけです。

《 「いいこと日記」のススメ 》
 で、その反省を踏まえて10月から始めたのが「いいこと日記」です。ネガティブなことを認識してさらに落ち込むのであれば、ポジティブ(前向き)なことを書き残して強く認識すれば「気持ちイイ」のではないかという単純な発想です。

 最初はパソコンに打ち込んでいたのですが、しかし、これが結構面倒くさい。そもそも家に疲れて帰ってから「今日のいいこと」を思い出すのは結構な労力です。パソコンを立ち上げて、机に座るのも面倒。加えて、過去に書いた「いいこと」をちょっと思い出そうとしても、手元にないとイライラが増すだけ。

 というわけで、今は携帯電話を使っています。自分宛のメールを一通下書きして、そこに日付順に順々に「今日のいいこと」を書いていくのです。で、書き終わったら送信しないで、「保存」して書き足していく。万が一、送信しても自分宛のメールですから他人にみられることは絶対にない。うん、これはイイです。

 特にいいのが、必然的に短くなること。なにせ47歳になってから打つ携帯メールですので、打つのが遅い。ですから「電報」のような文章になります。装飾を極力省いた文章は結構趣のあるものです。たとえば、「昼飯、日本橋でラーメン、つゆ熱い、うまい」とか「10年ぶりに顧客だった××さんと再会。お互い生き残った。飯を食う約束。」などと、内田百閒先生のような文章を書けます。

 さらに試してみてわかった重要なことは、「絶対にネガティブなことは書かない」ことです。ネガティブなことは切り捨てちゃいます。

 具体的には、「前からウマの合わない○○さんと、やっと腹を割って話ができた。今度の案件は共同提案とすることで合意。」というのはダメ。前半部分がネガティブですから。同じことを書くならば、「○○さんと今度の案件で大いに意気投合。共同提案へ。」が宜しい。とにかく楽しく生きていくための日記なんですから、ネガティブ部分はばっさり切り捨てることです。

 これを二ヶ月やってみたわけですが、驚いたのは結構「いいこと」ってのは毎日あるもんだということです。一日最低一個はあります。たとえば通勤で座れたとか、お袋に電話したら機嫌がよかったとか、上司からほめられたとか、etc。逆に言えば、そういういいことに気づかずに毎日、「俺はつまらない人生を送っているのだ」と考えることは、あまりほめられた生き方ではないのだなあと痛感します。

《 疫病神を追い払って、福の神を引きずり込む 》
 この「いいこと日記」、要するに「ポジティブシンキング」といわれる心理療法なのですが、同時に「足を知る」という東洋哲学・宗教的な悟りを得ることでもあります。私の大好きな言葉は「在掌明珠(みょうじゅ、たなごころにあり)」ですが、まさしくそれを毎日の生活の中で知るということなのだと最近感じてきました。

 年が明けても相変わらずメディアでは暗い話ばかりをしております。しかし、いくら暗く落ち込んでも、誰が慰めてくれるわけでもなし。それどころか、暗い奴からとはつきあいたくないものです。それならば、疫病神が逃げるくらいの楽観的な生き方をする方がよろしいのではないかしらん、と思います。

 「いいこと日記」、まことにバカバカしい試みですが、お時間があれば是非やってみてください。何よりも「無料」というのが宜しいです。使うのは携帯電話と自分の親指だけ。それで気分良くなれれば、噂の「格安居酒屋」も真っ青の気分転換になります。

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