《 パソコン、壊れました 》
いつも【余談】を書いている、デスクトップパソコンが突然、逝ってしまいました。操作をしていたら画面が凍り付いてしまい、あれやこれやとキーボードやマウスをいじっても反応なし。かくなる上は「電源をブチリと切る」という原始的手法での再起動を狙ったのですが、これがいけなかった。改めて電気を入れ直たところ、「チェックディスク」といって内蔵ハードディスクを検査するソフトが動き出し、そしてエラー発生の警告。なんとなんとデータの一部が読めなくなりつつありました。
それを見て、もう真っ青。たいていのものは消えても仕方ないと我慢できますが、デジタル化して保存しておいた家族写真が消えるのはさすがにマズイ。山田太一さんのテレビドラマ「岸辺のアルバム」では、家がもう流されるという時でも長男が危険を顧みずに家族の「アルバム」を取りに帰るくらい大事なもの。それが、「電源きって再起動したら、消えちゃった」ではあまりにも惨めすぎます。
というわけで、それからの10日間は修羅場。腫れ物に触るようにパソコンに近づき、ご機嫌を損ねないうちにそうっと生き残っているというデータを取り出す作業を延々続けました。幸い、家族写真ファイルは全部救出でき、ほかにも日記や電子メールのバックアップファイルなども待避させることができましたので幸運でした。
《 すばらしき海外製品 》
こんなわけで、「バックアップ体制」の重要性を知りまして、現在、徐々にでありますが家庭内バックアップ体制の構想を組み始めています。そのため、最新のIT機器を見に行かねばとばかり、ここ数日は家電量販店に入り浸りです。ちょうど使っているドコモ携帯の折り曲げ部分も壊れかけているせいもあり、最近出たスマートフォンなる携帯とパソコンの真ん中のような商品もみるべく携帯電話ショップにも立ち寄り中です。
それにしても驚くのは、その価格の安さと海外製品(特に韓国製品)の台頭ですね。価格に関して言えば、とりあえずのパソコンのバックアップ用に買った1.5テラバイトの有名メーカーのハードディスクが8,980円だったことには、ただただ驚愕。1.5テラバイトというのはiPodやウォークマンに入れる曲でいうと10~20万曲入ることになります。CDで言えば1~2万枚。CD1~2万枚のデータが8.980円の20センチ四方の箱に入るというのが僕にとってはSFの世界です。
そして海外製品に至っては、あれほど「メードインジャパン」を誇っていたこの分野ですが、おもしろい商品のかなりが海外製です。
たとえば、もう当たり前の存在になったiPodやiPhoneといったアップル社の商品。こいつはいまだに根強い人気で、オークションサイトなどでも全然値段が下がりません。もちろん店頭では基本的に定価販売。値段なんて下げる必要なしなのでしょう。iPhoneに至っては、ドコモよりも電波の届きが今ひとつ悪いソフトバンクだけが正式販売店なので、その間隙をぬって、ドコモでも使えるようにと改造をしたり、香港やカナダなどドコモでも使えるiPhoneの販売店があったり、ついにはドコモと同じ回線だけどドコモにお金を払って回線に相乗りさせてもらいiPhoneをドコモのネットワークで使えるようにするという通信業者も出てきました。いやはや、すごい。
さらには最近、iPhoneのシェアをとってやれということで、どの携帯電話会社もスマートフォンを出していますが、中でもドコモの電波で使える韓国サムソン電子の「ギャラクシー」というシリーズが大人気です。口の悪いユーザーは「iPhoneのパクリだ」と言いますが、なーに、なんでも技術は模倣から始まるモノ。それよりも、iPhoneとは違うアンドロイドという基幹システムでも、これだけ使い勝手が良くて、早くって、きれいで、直感的な操作ができる機械を作りだしたサムソン電子には拍手です。ネットでのユーザーの感想もおおむね好意的。加えて、少し大きめの「タブ」という機種もありまして、これは老眼の入った私にとっては感涙もの。すばらしいプロダクツです。
IT以外の家電でも、サムソン電子やLG電子の液晶テレビは日本製と比べて遜色あるようには見えないし、掃除機ではダイソンなんてところがシェアを伸ばしていますし、ボネコの加湿器やデロンギのオイルヒーターなど通信販売雑誌の推奨で見いだされた商品も日本でプレゼンスを獲得しました。そしてそのいずれもが、サービス、保守面でも非常に力を入れているのでアフタケアでの心配はなくなってきました。恐るべき海外電機商品。
《 どうしてそんなに悲観的になるのか 》
などと、こういう状況を書くと、たいていのエコノミストやマスメディアは「日本製品がなくなる日が来る!」という悲観的なコメントを書きたがります。まぁ、その方が面白いので、読者へのサービスなんでしょうけど、私はそう思いません。むしろ、こうやって、最先端を走る業界で多くの国や企業が切磋琢磨する状況は極めて好ましいことだと思います。そして、「(日本以外の)アジア製品は安かろう悪かろうだ」と色眼鏡でアジア製品を見る人々を横目に、若い世代が国境を越えてより良い製品やすばらしいサービスを高く評価するということは、非常に良いことであると思います。日本製品だってほんの数十年前はそうだったんですから。
サムライの時代から明治維新へ、そして太平洋戦争以前と以後、価値観が大きく変わったことに日本で育った人間は大きく戸惑いました。しかし、それは「井の中の蛙」が外に飛び出て、その広さに驚いているだけで、やがてそのことが自分たちを高めていったこともまた疑いようのない事実です。だからこそ、幕末モノがあれほど日本で共感を得るのでしょう。我々の遺伝子自体が知っているのでしょうね、「暖かくて狭い井戸の中にいてはいけない」ということを。
私にとっては2010年の日本は「ナショナリズム台頭」の年であったように思います。米軍基地移設、朝鮮半島の緊張、尖閣ビデオ流出問題、その他その他。経済ではアジアの成長国との外国為替面での不公平感やそれに伴う産業空洞化など、「ナショナリズム」の空気を後押しする出来事が毎日のように起こりました。
私には安全保障をどうやって担保していくのか、また、正しい為替政策とは何かということを述べるだけの十分な知識はありません。ただ、日本という国が井の中の蛙になってしまうことは、かえって危険だと思っています。なぜならば、とてつもない危機や閉塞感に陥ったのは今回だけではないからです。平静22年の社会もしんどいけど、1970年代も1990年代も2000年代もそれはそれで辛かった。それはまだ幼い子供であったかもしれないけど、自分の記憶の中に刻み込まれています。
たとえば二度にわたるオイルショック、円の固定レート制の撤廃、公害問題、円高、日本バッシング、バブルと崩壊、ITバブルと崩壊、そして金融危機。しかし30年で埋蔵量が枯渇されると言われた石油は今なお使われていますし、「強い円」に伴う輸出産業の苦しみは逆に内向きであった日本企業の現地化や価格競争力を生みました。二輪車メーカーでしかなかったホンダは、米国のマスキー法に対応するCVCCエンジンを開発して、一気に世界のホンダとして四輪車の世界を駆け上がるし、そのときのリーンバーンエンジンの仕組みは今も燃費向上の基本技術として使われています。バブル崩壊の影響は今なお爪痕を残していますが、だからこそ、日本の金融業は護送船団をやめざるをえなくなり、日系証券会社はすべて内容が変わりました。そのことが金融機関の体力強化を生み出したこともまた事実です。
《 3つの「I」(アイ) 》
米国の投資家で、いわゆる短期売買のトレーディングではなく、じっくりと腰を落ち着けて企業の価値を見極めた長期投資をする「神様」として、昔はフィデリティの「ピーター・リンチ」氏、そして今は「ウォーレン・バフェット」氏が有名です。そのバフェット氏の言葉。
「すべての事柄には三つのIが存在する。最初にやってくるのが革新者(イノベーター)、次にやってくるのが模倣者(イミテーター)、最後にやってくるのが愚者(イディオット)。」
さぁ、今の日本のそれぞれの産業はどの「I」の段階でしょうか?。イノベーター?、イミテーター?、イディオット?。イノベーターであっても収益への寄与がはっきりしていないこともあるでしょうし、収益への寄与は莫大でもイミテーターからイディオットに移行している途中であることもあるでしょう。羅針盤が効かない今の時代、自分自身の位置を確認するために、どの「I」にいるのかを考えてみてはどうでしょう。そうすると、意外なところが「イディオット」に入り込んでいる割に、意外なところが「イノベーター」であることに気づくような気がします。
外資系証券会社でアナリストをしているときに、よく使ったのが”Healthy competition”という言葉です。これは世界の投資家が好きなので、ついついシメの言葉として使うようになってしまいました。
「健全なる競争」、ズルをしない健全な競い合い。それこそが人間社会を高める最大の原動力であるし、そして日本がこれだけの借金と社会問題を抱えていながらもプレゼンスを維持している最大の理由ではないでしょうか。とかく批判の対象となりがちな若い世代も、昔の価値観で隣人を見ず、「カワイイ」「ヲタク」という新しい価値観をひっさげて国境を越えた製品やサービスの「健全なる競争」の世界に飛び込んでいます。取り残されているのは実は偉そうに説教を垂れるオッサンとオバハンだけ、ということにならぬよう頑張らねばなりません。
ちなみにパソコンは電話一本でメーカーから修理品回収業者さんが来てくださいました。これはまた日本における最高のサービスですよね。
良いお年をお迎えくださいませ。