《 流行しているフラッシュマーケティング 》
 「フラッシュマーケティング」という言葉をご存じでしょうか?。インターネットによる販売方式のひとつで、ここ数ヶ月とても人気が出ております。テレビでも取り上げられるようになってきたので、ご覧になったかもしれません。

 やり方としては、「オークション」と「共同購入」と「数量限定」と「期間限定」を掛け合わせたようなものです。具体的には、本当は一泊5万円の高級ホテルに1万円で宿泊できるチケットを、100枚限定でインターネットサイトで売り出します。ただ、この販売には条件がついていて、販売開始から6時間以内に100枚が売り切れなければ成立しないというルールを決めてあります。ネットの画面上ではリアルタイムで何枚売れたかを表示する仕組みになっています。

 よって、自分は申し込んだけど6時間以内に100枚売れそうもないのであれば、たとえば友人を誘ってチケットを買うように薦めるとか、ツイッターやフェイスブックのようなSNS(自分のメッセージを即時性を持って伝えられるネットの仕組み)を使って口コミで「こんなのが販売されてる!」と情報を流すことで、100枚販売達成が完了するようにするのです。

《 稼働率維持が第一目的 》
 「フラッシュマーケティング」には、私が見る限り、大きな特色があるように思います。

 それは「設備稼働率」と「値引き」を天秤にかけて、「設備稼働率」の方が重要な商材には大きなメリットをもたらすと言うこと。実際、「フラッシュマーケティング」に出される商材は、ホテルの宿泊券やレストランの食事券が多いようです。これらの「ハコはあって、如何に顧客をたくさん効率よく回せるか」が投資回収に直結します。よく出張のためのホテルを予約するのでも、「直前に予約した方が安くなる」というのは経験するところです。

 ということは、飛行機などもこれに近いことが起こるのではないかと思われます。今の時点では、飛行機はなるべく事前に予約をすればするほど安くなりますが、それでも全席を埋めきれないことの方が遙かに多いと思われます。正規料金で乗った乗客は変更自由というのが航空機の原則なので、「フラッシュマーケティング」みたいなやりかたで販売数量を限定するのはあまり適しませんが、似たような仕組みで値引きをして稼働率を確保するというのはアリでしょう。

《 フラッシュマーケティングは焼畑農業? 》
 一方で、この「フラッシュマーケティング」に、ビジネス領域を浸食されている企業も存在します。既存の旅行代理店やネットのホテル予約サイトです。なにせ、強烈な値引率で一気に100単位の部屋やレストランの座席を売り切ってしまうのですから、稼働率低下に悩むホテルやレストランからはオファーが増えますし、販売時間を限定することから売れるか売れないかのリスクも小さいので、まさしくwin-winに見えます。

 先日、あるホテル予約サイトを運営する企業の説明会に参加しました。その時には是非、この「フラッシュマーケティング」のことを質問したいと思っていたのですが、会社側から説明なさいました。彼らのサイトでも「フラッシュマーケティング」をやり始めたのだそうです。なるほど、そうだろう、と私は一人ごちました。しかし、次の会社側のコメントは衝撃的でした「フラッシュマーケティングは焼畑農業にしかならないので、慎重に対処しなければならない」。

 「焼畑農業」という言葉が印象的だったので、どういう意味を想定して仰ったのか質問したところ、(1)何度もやると「どれが本当の価格なのかわからなくなり、事業者・顧客の双方の価格への感覚が麻痺してしまう」、(2)よって同じ事業者が何度もできないので肥沃な顧客数とそれに対応する事業者数のある大都市でしか成立しないため、という返答が返ってきました。

《 ブランド・稼働率・単価のバランス見直し 》
 ここで私の脳裏に強く刻み込まれたのが「何が本当の価格かわからなくなる」という一言です。私が担当している小売、卸、外食、サービスでも色々な理由による単価引き下げはもはや当然であり、何が本来の価格かわからなくなっているものが相当数あります。以前にこの「佐々木余談」で「顧客をこれほど甘やかしてよいのか/正当な対価を取るべきではないか」と申し上げましたが、最も先端的と思われるインターネット販売の世界でも同様のことが起こっていることにショックをうけました。

 あえて誤解を恐れずに言えば、「焼畑農業」がどこでも行われているのが今の消費サービス産業ではないでしょうか。そしてそれは自身の築いてきたブランディングを破壊することでもあります。しかし、ブランディングにこだわって高額な単価をつけたままでは顧客は皆、ショーケースの前を素通りしていってしまう。

 「ブランディング」と「稼働率」と「単価」のバランス。自身の商材はどういうバランスを持って販売していくのかを真剣に全社的に決めていかねばならぬのだなあと痛感した機会でした。

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