《 不透明感を増してきた第三週決算ウイーク 》
第三週の特色は三点あります。(1)客数改善の方向性が第一週・第二週ほど明確では無くなってきた、(2)下期以降に対する見方が悲観的になってきた、(3)「生産系」に疎い企業の業績悪化が目立つ、です。
(1)第三週の決算説明会に佐々木が参加した企業は、総合小売業系5社、専門小売業系4社、外食業系3社です。これらの既存店客数前年比の単純平均は△0.07%。第二週の平均が△1.7%ですから一見マイナス幅を縮小しているように見えるのですが、大規模改装をしたり別館を手に入れた百貨店が2社入っているので、それらの影響を除くと△2.3%でスーパー系が中心であった第二週よりも厳しくなっています。
なによりもばらつきが大きく、衣料専門店系でプラス二桁台に近い企業もあれば、大型の旗艦店で入店客数が△4~5%台という企業もあります。専門小売業系と外食産業系の説明会が増えた第三週は先週までに比べて業態間格差、企業間格差が広がったといえるでしょう。
(2)に関しては明確な理由があります。ひとつは日銀の量的緩和でも円高が止まらず、景気に対する先行き悲観論が増えたこと。もちろん、次期の予算は9月には作り終えているのですが、修正が施されたという印象を受けます。もうひとつの理由は8月中間決算ではなく8月本決算の会社が数社含まれていること。これらの企業は2011年8月までの業績予想を開示しておりますが、2010年9月~2月だけではなく、2011年3月~8月までの半年業績も開示します。これがかなりの悪化を予想しています。しかし、要因は様々で減収予想によるもの、積極投資によるものなどバラバラです。
《 「生産系」軽視のツケが来た 》
そうした中で、共通点を述べるならば「生産系」という言葉でしょうか。流通業はメーカーではないので、「生産」ということとは一見無縁に見えますが、これだけ多くの総合小売業系がプライベートブランドに関与し、専門小売業系はSPAやSCMに関与しないではおられなくなり、外食業も如何に川上に遡及した原材料調達がローコスト(=ロープライス)の鍵になる中で、流通業といえども「生産系」とは無縁でおれなくなっています。
しかし、実は結局のところ「生産系」への関与はお題目に過ぎず、何もしてこなかったのだなぁと感じる局面が今週は多かったように思います。特に衣料専門店系。SPAだSCMだ中国生産だリードタイム短縮だと言ってきましたが、実は2000年に入ってからのショッピングセンターブームに乗って業績を伸ばしてきた衣料専門店は、実は何もしていなかったのではないかという疑念を私は持ち始めています。というのは尖閣諸島問題や欧米ブランドの生産ライン独り占めによるクラウディングアウトを受けて、一気に中国からの調達でパニックに陥っているからです。
基本的に「生産系」で考えておかなければならないのは、ローコストのために工場側の生産ラインの稼働率を高く維持できるロットをコンスタントに発注できるかと、万が一の主力工場依存ができない自体のフェイルセーフ、コンティンジェンシープランの確保であります。しかし、見事に2000年代ショッピングセンターテナント系衣料専門店はこれができていなかった。それが証拠に各社とも慌てて、「生産系」の人材確保に動いています。しかし、同じ2000年代衣料専門店には「生産系」のことをわかる人間は誰もいない。言葉は悪いですが、トレンドやら、マーケティングやら、テイストには詳しくても、モノ作りの遺伝子を持たない企業ですから、人材確保は伝統的なアパレルメーカーからヘッドハントするという状況です。事実、決算説明会では「あれれ?、ここも××社の人が経営者で入ったの?」というケースが続出です。
衣料専門店系だけではありません。そのほかの専門小売業系や外食業も、「生産系」にまできちんと着手していたところはきっちりとしたビジョンと揺るぎないプリンシプル(行動規範)を維持しています。ある外食業は新業態のレストランを「1000店舗、国内で展開できなければやる意味はないでしょう」と語り、「従業員動線の改善のためにすべての店を一旦スクラップすることもあり得る」と述べて佐々木を驚愕させました。「生産系」がしっかり固められているから、そのアウトレット(出口)である店にここまで大胆な発想ができるのでしょう。
《 閉塞感を作り出しているのは自分達 》
そうすると、申し訳ないのですが、多くの流通業の考えていることが非常に「こんまい、どうでもいいこと」に拘泥しているように思えてなりません。いや、もちろん、そうした小さいことの積み上げが業績を作り上げるのだとわかってはいるのですが、なんと言いますか、俯瞰的な・鳥瞰的な・本質的な議論には踏み込まず、とりあえず近くのことだけをチマチマといじっておけば事たれりという意識が見え隠れしてなりません。
ずっとこの「余談」で申し上げていますが、なぜ日本は店着原価+リベートでしか原価交渉ができないのか?。なぜ工場出荷価格+コストオンで原価交渉ができないのか?。この本質的な課題に取り組んでいる企業の姿が見えないのです。そしてそれがもし「ロットの大きさ」がないことによるのであれば、徹底的な資金調達と徹底的なM&A(もしかしたら敵対的TOBまで含めて)巨大なロットを確保すべきであると思います。
「閉塞感」が日本経済のキーワードになっているようですが、実はその「閉塞感」を作っているのは我々自身の前例主義にあるのかもしれないと疑って見る大胆さが必要でしょう。