《 買い物は投票に行くのに似たり 》
 先週は比較的中堅の企業や株式未公開の企業を訪問することが多く、いつも以上にそれぞれの会社の社史や理念などを勉強することに時間を使いました。そうした中で一番印象に残ったのは「全ての小売業はディストネーションストアにならなければ生き残れない」というある経営者の言葉です。

 前にも書きましたが、一番最初で働いた外資系でご一緒させていただいた鈴木孝之アナリスト(現在はプリモリサーチ代表取締役)が、海外出張の途中でぼそりと言った言葉が今でも私の企業を見る基準になっています。

 「お客さんはオカネという投票権をもって、今日はどこに投票しようかとさまよい歩いている」

 なるほど、お金は投票権なのだという見方は、まだ経験の短い私にとって大変に新鮮で革新的に聞こえました。しかし、株式市場が段々と厳しい状況に陥り、アナリストもより営業職の強い業務にシフトせざるを得なくなってくる中で、鈴木さんのこの金言を忘れかけていました。

《 少なくなった投票したい店 》
 しかし、今、事業会社の方々と真っ正面から向き合い、どう企業価値を上げるのか、何をすべきであるのか、どういうメッセージを投資家や顧客に発信すれば良いのかということを考えると、鈴木さんのこの言葉が蘇ってきます。つまり、「この会社に私はお金という大事な投票権を投票するだろうか、否か?」と。

 残念ながら以前に比べると「ここに投票したい!」と思える小売業や外食、サービス業が減ってしまっているように思えてなりません。もちろん、それは私の加齢のせいもあるでしょう。若い時であればコンビニのドカ弁や食べ放題のビュッフェ、または女の子受けするアクセサリーのお店やバーなどにもっと興味をもったことでしょう。同じスーパー、スーパーストアを尋ねても結婚間もない頃であれば肉が安いところで好んで買い物しましたが、今、惹かれるのはトコロテンと納豆と魚です。

 ただ、その一方で「費用対効果」とか「こんなもの見たことがない」という付加価値にあふれた店は、それが何の店であろうと立ち寄ってしまいます。とはいえ、そういうお店は非常に限られてきているのも事実です。

《 価値の根源を他人任せにしていないか? 》
 「全ての小売業はディストネーションストアでならねばならない」と仰った企業は業態としては何の変哲もないものです。しかし、徹底的なドミナンスと、非常に高い粗利益理の出る商品を扱っているにもかかわらず、その商品の粗利益率を毎年下げて顧客にとってなくてはならない店にすることがゴールなのだと仰います。まさしく、ディストネーションストアです。

 一時期は100円均一のお店というのはディストネーションストアであったと思います。しかし、最近、ある事実をしってからあまりディストネーションストアとしては考えなくなりました。なぜならば、100均は自社でMD開発は殆ど行っておらず、川上のメーカーや卸の開発力に頼っている割合が圧倒的に多いためです。要するに、そうした「これが100円!?」と思わせるようなMDをしているのは川上のメーカーや卸であり、100均自体は単なる「アウトレット(出口)」でしかないということがわかって、佐々木は気持ちが冷めてしまいました。

 そして、残念ながらこうしたところがまだまだ日本では大勢を占めているということは非常に悲しい事であります。

《 自分のディストネーションストアの棚卸しを 》
 もちろん、「付加価値」などというものが、インスタントラーメンのようにお湯をかけて3分間でできるものとは思っていません。常に変化をしていくという信念と、変化を恐れる社内外の人々とのあいだのせめぎ合いで勝ち取っていくものなのだろうと思います。それは長く辛い戦いであり、一つ終わったと思ったら、また次の波が来る。私は経営者ではありませんが、多分「いやんなっちゃう」ものなのでしょうね。だからこそ、経営者というのは特殊な才能なのかも知れません。

 私もどことは名前を挙げませんが、大きなショッピングセンターに行くと必ずよってしまうディストネーションストアがあります。漫画好きの佐々木というところからご想像が付くかも知れません。そこでは買わないこともあるのですが、たいていは数冊の掘り出し物を買います。また買わない商品のPOPを見ているだけで楽しくなりますので、30-40分は過ごしてしまいます。

 飲食店でもありますね。前は銀座八丁目(銀座高級クラブ街)でやっていた大将が、ビルの建て替えにともなって、銀座のかなり裏手でやっているお店なのですが、煙草は吸うし、開店すぐにいくと小僧さんと昼寝はしているし、まぁ、おおよそお客さんをお連れしてはいけない店ですが、ご飯が非常に特殊な炊き方をしてあるのと、規模の割に良いお魚があるので、一人で時々行きます。「よく、潰れないね」と嫌味を言うと、「みなさん、そうおっしゃるんですよね」と笑いながら、旨い寿司を食わせてくれます。これもディストネーションストア。

 一度、自分のディストネーションストアを持ち寄って話してみると、意外な付加価値の共通点が見つかるかも知れません。

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