《 そのバランスシートの現金額ってホント? 》
なんだか妙に頭の中で繰り返し繰り返し、昔の流行歌とかCMソングが流れることってありませんでしょうか?。私は(正確じゃないかも知れませんが)、「よぉ~く考えよう~、オカネは大事だよぉ~」という消費者金融のCMソングがここのところ頭の中にこだまして止まりません。なんでなんだろうと、ずっとこの一週間考えていたのですが、メールメッセージを書き始めて気づきました。「キャッシュって大事なんだなあ」と実感することが今週は多かったから難です。
私は事業会社に伺う前にはウェブサイトで財務諸表や企業理念、店舗網などなどを下調べしてから訪問します。で、2009年のバランスシートを見ていてあらためて感じるのは、結構、手元流動性(=現預金+換金できる有価証券)が相対的に減っているところが多いなぁということであります。まぁ、2010年2月は20日締めも末日締めも銀行休業日でしたから、バランスシートは異常値になっていることを割り引かなければならないのですし、減収の中で手持ち現金が減るのはどの企業も当然なんですがね。
それでもやはり気になります。なぜならば、以下の点に関しての疑問があるからです。
(1)棚卸在庫の実際の価値は幾らなの?
(2)土地や店舗の有形固定資産の時価簿価差額って本当はいくら?
(3)M&Aの「のれん」って毀損していない?
(4)差入保証金や敷金ってきちんと返ってくるのかしらん?
当然のことながら、在庫資産も店舗資産ものれんも「資産」であるから、バランスシートの右側の「借入金」とか「株主資本」とバランスしているわけですが、(1)~(4)の価値が低ければ実態と帳簿が乖離しちゃいます。特に、その乖離幅が現預金以上だと、アラマ大変。銀行さんからイエローカードをくらっちゃうかもしれません。
《 実は結構オカネの無駄遣いをしてませんか? 》
もちろん、各企業ともに会計士の先生から厳しい在庫の精査を受けているでしょうし、店舗資産に関しては減損会計が一般化していますので、あまり気にする必要はないかなとはわかっています。しかし、会計士の先生も「これは来年も売れるキャリー在庫ですよ」と企業側に強く言われればそれを否定するのは相当難しいでしょうし、「のれん」に関しては買収した企業のブランド価値を測定するのが現実的に難しい以上、正確な目減り分を測定するのは極めて難しい。となれば、バランスシートに掲載されている現預金の数字は実はあやふやなものかもしれない….なんてことを考えてしまうんです。
さらに気になるのは、設備投資と採算改善施策です。この御時世なので、積極的な設備投資をしているところはそうそうありませんが、それでも最低レベルの投資は維持しているところが殆ど。一方、株主や資金の貸し主からの要請で店舗閉鎖や人員整理をなさっているところも多い。閉店しない減損は帳簿上の議論でしかないのでオカネを失うことはないんですが、店舗を閉めて違約金を支払ったり、原状回復したり、割り増し退職金を支払ったり、別店舗への人員異動をしたりするのはすべて現金が金庫から出て行ってしまいます。所謂キャッシュアウトです。しかも、店を閉めれば売上現金も入ってきません。ただでさえ、手持ち現金が減る状況で、さらに入ってくるお金も減ってしまいます。
《 市場が間違っていると考えてはいけないのでしょうか 》
もちろん、佐々木は「不採算な事業や店でも放っておけ」と言いたいわけではありません。ただ、何度も何度も何度も何度もこのメールメッセージで書いているように、やはりどうしても「現金」というものに対してあまいところが流通業、特に仕入れサイトの長い流通業には染みついているかなということを感じてしまいます。
自分の立場が変わったのでこんな事が言えるのでしょうが、不採算店舗を閉じて人を整理して、それで果たして企業価値(=株価=時価総額、もしくは未公開企業ならば被買収金額)が増えるのかしらん?、と思うことが増えています。大変高い収益性を維持しているにも関わらず、解散価値(=株主資本の金額)よりも安い株価しかついていない企業って日本にはゴマンとあります。おかしいですよね?。解散価値より安く買えるならば、あっという間にハゲタカファンドが買いに来て、会社をバラ売りするでしょう。でも、なぜそれが起こらないのでしょうか。日本に魅力がないから?、アジア投資の方が効率がよいから?、日本企業のバランスシートを信じられないから?、エトセトラエトセトラ。どれが答えなのか私にはわかりません。
ただはっきり思うのは、この状況は企業の自助努力の範疇を超えちゃっているのではないかということです。日本の株式市場自体(もしくは日本株に投資している投資家)が機能不全に陥っているのであれば、教科書通りのことをしても効果はないのではないかと思うのです。
それよりも、株式市場がマトモじゃない状態であるならば(ああ、言ってしまいました….(苦笑))、いっそのこと、今はとにかく調達できるものは借入金であろうと資本であろうと調達して「大事なオカネ」を貯めておいて、来るべき大戦争に備える時期なのかも知れないなぁなどと考えます。
まぁ、アナリスト説明会でこんなことを言ったらぶっ飛ばされますが(爆笑)。でも、なんだかんだ屁理屈を言って企業の価値を認めてくれない市場であるならば、「逆に利用してやれ」、くらいのしたたかさを事業会社サイドが持っても誰も責められないのではないでしょうか。企業の経営陣は資金の出し手に「隷属」しているのではなく、「経営を託されている」のでありますから、まず第一に生き残ること、第二に調達コスト(=金利とか資本コストとか)を超える収益性を維持し、第三に短期的にはジグザグしても長期的には右肩上がりになる成長をすることだと思うのです。
私は今のような事業会社がアナリストや機関投資家に隷属するのが当然だというような風潮は好きではありませんし、間違っていると思います。アナリストがレーティングを変え、機関投資家が売り買いをする権利があるように、事業会社には上の三つのことを守ることを優先するという権利もあると思っています。隷属ではなく、対等であらねば「効用の最大化」が望むべくもないでしょう。
《 カネの切れ目が縁の切れ目 》
閑話休題。
前々回のメールメッセージで「勝ち残りより生き残り」とタイトルをつけましたが、色々なエリアの色々な業態の企業を拝見してますますその思いを強くしています。残念ながら、市場からの撤退を余儀なくされる企業が出てくる時期に入ってきてしまいましたし、その時に一番大きな要素は「オカネは大事だよぉ~」という最もシンプルな真実なのだとも強く感じております。