《 本当に小売業だけが流通革命の主役なのか? 》
3月決算・5月発表の決算説明会も終盤戦に来ました。先々週、先週はたまたまですが、卸売業の説明会に参加することが多かったのですが、大変興味深いことを発見しました。それは「日頃、小売業が自慢している仕組やシステムやポリシーのかなりの多くの部分が、卸売業によって支えられているようだ」ということです。
たとえば、棚割のシステム。効率的な売上高を作れるようにどう商品を棚に並べるかの「棚割」は移ろいやすい消費者嗜好の中で、永遠に解のない答えを探るようなものです。そして多くの小売業は、その棚割をどのように作るかを自動、もしくは半自動でシミュレーションしてくれるシステムを持っていることを決算説明会では自慢します。
しかしながら、どうも今回の複数の説明会で日曜雑貨からグロサリー、医薬系までの卸売業の説明を伺うとその棚割システムの相当程度の物は卸が商流を扱わせてもらう付帯サービスとしてついているもののようです。もちろん、規模の大きい小売業であれば自社で完全開発したものも使っているのですが、規模が数百億円~1,000億円程度の小売業では殆ど卸に棚割システムは依存いるような感じです。
棚割以外でも、小売業の現場が感じている商品への不満や疑問、リクエストなどを細かく拾って、それを自動的にメーカーに転送する仕組みであるとか、FSP(ポイント販促)の仕組みであるとか、「おぉ、ここまで卸はやるのか」と驚くようなことを小売業側に提案しているのだと驚きました。確かによく考えれば物流センターも親しい卸に頼んで、専用センターを用意してもらっているところも少なくはありません。
《 小売業はラクな思いに甘んじていないか? 》
いや、もっと有り体に言えば、川下の小売業は川上の中間流通やメーカーに対して色々と厳しいことを言いますが、その小売業は結構、中間流通のおかげで「ラクな思い」をしているんだなぁというのが、複数の中間流通の説明会を聞いての印象です。いや、10年前はもっと小売業が「通流」において主導権を握ろうとしていましたから、その流通革命の流れが後退しているのではないかと思います。もちろん、それは売上高が伸びない厳しい時代が長きに渡って続いているからでもありますが、しかし、それを言い訳にしてはならないことでしょう。
なんどかこの「余談」の中で、回転差資金を原資にゴーイングコンサーンで会社さえ回っていれば良いんだという、川上に甘えた小売業が増えすぎてはいないかと申し上げてきましたが、なるほど卸側の説明を聞いてみると、そうしたくもなるような巧妙な(という言葉が適当かどうかはわかりませんが)罠が仕掛けられているのだなあと得心した次第です。
《 少なくとも大手商社は復活した 》
同じ証券アナリストの出身で、今は企業再生コンサルティングの企業を経営している松岡真宏さん(NRIの元・同僚でもあります)が「百貨店が復活する日」というベストセラーの第二弾として、「問屋と商社が復活する日」という本を出されたことがあります。一冊目同様、勢いが無くなりつつあった産業(一冊目:百貨店、二冊目:中間流通)に対して、「本当にこのままこの産業はダメになると言えるのか?」と疑問を投げかけた本で、かなり話題を呼びました。
出版されたのが2001年の年末で、総合商社も今のような資源ブーム・新興国ブームの萌芽もなく、また問屋に至っては「(メーカーと小売業の)直接取引」が呪文のように唱えられた時期なので、この書籍への同意・不同意は真っ二つに別れたのを覚えています。その名残はしっかり残っていて、アマゾンのレビューを見ると意見がくっきり分かれているのがわかります(http://www.amazon.co.jp/%E5%95%8F%E5%B1%8B%E3%81%A8%E5%95%86%E7%A4%BE%E3%81%8C%E5%BE%A9%E6%B4%BB%E3%81%99%E3%82%8B%E6%97%A5-%E6%9D%BE%E5%B2%A1-%E7%9C%9F%E5%AE%8F/dp/4822242587、 もしくは「問屋と商社が復活する日」でアマゾンを検索してみてください)。
結果的には百貨店はそれから劇的なコスト削減で復活を遂げたものの、根本的な商品戦略の変更などにまでは手は回らず、いくつかの百貨店は実質的に姿を消し、残るいくつかの百貨店も再編統合の波をどう乗り越えればいいのか苦悩しているところです。ただ、総合商社は先ほど申し上げたように資源と新興国のブームという追い風と「適性経営資源配置」という概念の導入により、大手は大きく蘇りました。そして卸売業も全てとは言いませんが、冒頭から述べているように、「黒子」に徹することでしっかり「名よりも実をとっている」ように思えます。
そうすると、松岡君が10年前に書いたことはあながち的外れでは無かったと言えるように思います。いや、それよりも、意図せずして、小売業の「堕落」を見抜いていたのであれば、強烈な洞察眼であったと言えます(照れ屋の彼ですから、「そこまでは考えていなかったッス」というでしょうが)。
《 流通革命には小売も問屋もない 》
一方で、機関投資家にレポートを書くという意味でのアナリストではなくなったものの、依然として産業企業研究をしているササキにとっては、複雑な心境です。結局20年間、調査研究をしてきた流通業は「あんまり変わってなかったんだねえ」ということになるわけでありまして、ちょっとばかし寂しい。
いやわかっているのです。「あんまり変わっていない」というのは言い過ぎでありまして、SPAとか製販統合とか言う言葉が当然のごとく使われるようになったわけですし、中間流通が収益をあげられる余地はなんだかんだ言っても縮小しているわけで、その証左が大手中間流通の再編統合でしょう。W/R比率にしても、W/W比率にしても、毎年着実に合理的な数字になっているのですから、ササキの変化の時間軸への認識がちょっとばかし先走りしすぎていたということでしょう。
ただ、一つだけ言えることは小売業が市場が縮小する中で必死に闘っている企業があるように、中間流通もまた必死に闘っている企業が数多くあると言うことです。どちらが善で、どちらが悪という決めつけが必要なのではなく、両方の努力の結果、消費者、大上段に振りかぶって言えば国民は豊かになれるのだということを肝に銘じて産業企業研究はしていかなければならないのだと気持ちを新たにしたということが一番申し上げたかったことであります。