《 EC再び 》
さて、2月以降の景気底打ち感を受けてなのか、はたまたマスメディアを使ったキャンペーンなのかはわかりませんが、ニュースショーや新聞雑誌でも消費回復ということが取り上げられるようになってきました。しかし、その割には三月決算会社の消費関連産業の今期業績見通しはまだまだ堅いものが多いように思います。時には二桁営業増益を予想していたりする企業もありますが、終わった期の業績が極端に落ち込んだ反動であるケースが多いように思います。
経費削減は各社とも取り組んでいるものの、正直なところ、ここからのさらなる削減は限界でしょう。もちろん削減はいくらでもできますが、現場のモチベーションを落とし、サービスクオリティを落としての経費削減となってしまって、売上がさらに下がるのであれば無意味です。そんなわけで、改めて故・中内功さんの「売上は全てを癒す」という至言を思い起こす昨今です。やはり流通業はトップラインですね。
各社とも、行き過ぎた低価格戦略を改めて、何か独自の増収策をとれないかと考えているのは以前の「佐々木余談」でも申し上げた通りです。しかし、これまでの延長戦では増収策は難しい。で、ネット販売、eコマース(EC)といったところへの希望を捨てきれない企業が多く、「ECに参加できないか?/EC企業を買収できないか?/EC企業からの出資を仰げないか?」などの問い合わせをいただきます。
《 三つの適正をクリアすればECはアリかも 》
私はこのメールメッセージの2009.11.29「隣の芝生は青いのか」でも触れた通り、「ネット販売、ECをやればバラ色の将来だよ」という甘い考えには賛同できません。しかしながら、一方であるパターンに「はまる」ならば、ネット販売、ECは確かに三つの適性を踏まえたうえで新機軸の売上を取るチャネルになるのではないかと思うようになってきています。
一つ目は「早さ/速さ」が差別化になる場合です。アマゾンでの新刊本や新発売CD・DVD、また話題のiPadでもそうですが、とにかく「早く手に入れたい」という向きにとっては、ECは極めて効果的です。まず予約販売を受けられますのでその分の在庫はすぐに現金化できますし、おおよその必要在庫見込みもつきます。これを逆手にとって、渇望感を煽ることも可能です。アップルが家電量販店での販売を制限したのも多分、その方向性に持っていくためでしょう。つまり「付加価値がある=早く欲しい」という欲望を自社でマネタライズ(現金化)するにはネットは極めて有効です。
また「速さ」という点で有効なのは言うまでもないでしょう。ちょっと漫画が読みたいな、でも、近くの本屋にはないなという時のアマゾンや、雨が降ったときの買い物の億劫さを避けるためのネットスーパー活用などは「速さ」そのものが価値です。そして、今は年配者はネットがつかえませんが、「買い物難民」がいよいよマスメディアでも取り上げられてきた昨今、電話一本で済む「御用聞きEC」が一気にシェアを伸ばすでしょう。その時は配送コストの高いサードパーティーロジスティックを使う既存EC業者ではなく、生活協同組合などの「ラストワンマイル」を自社でやっている企業の出番となると思うのです。もっとも生協の官僚体質の中でどれだけの関係者がこの膨大な付加価値に気づいているかは知りませんが。
《 推奨できるMDならばECは規模を選ばない 》
二つ目は流通業にとって非常に重要な付加価値である「リコメンデーション(お奨め)/衝動買い」を誘うことができるということです。流通業の役割は色々とあって、(1)ロットの小分け機能、(2)決済機能、(3)物流機能、(4)保証機能などが思いつきますが、一番重要かつ最近は重要性を増しているのが「(5)推奨機能」ではないかと思います。実際、「なんとなくこういうものが欲しい」「これとあれはどう違うのか」「どれがバリューフォーマネーなのか」といったことに対して正確な解答をくれる流通業は必ずしも多くはありません。
個人的に私が不満を持っているのは家電量販店で、エコポイントで盛況なのは結構なことですが、きちんとした商品説明や推奨、そしてその理由について接客できる店員は皆無と言って良いと思います。よって家電量販店の隆盛には私はどこか危うさを感じます。きちんとした付加価値提供が出来ない企業、産業は最終的には崩壊していくからです。
先日、あるテレビ通販関係の方から、「なぜ年配者はテレビ通販で物を買うかと言えば、明確な推奨理由があるからだ」とお聞きしました。なるほど、ジャパネットたかたさんの番組では「薄型テレビ」を扱う回であれば、テレビは二種類しか出してきません。で、こういう使い方をするならばこっち、こういう使い方をするならばあっちと、理由を詳細に述べた上で明確にリコメンデーションをしてくれます。よく「おまけの多さがジャパネットの強みだ」と言いますが、それだけが本質ではないと思います。多くの種類の商品で迷いあぐねている顧客に、明確な指針を与えるのも重要な流通業の付加価値です。
ネット通販、ECは「なぜ私どもはこれをお奨めするのか」ということを十二分に説明する方法も時間もメディアの容量もあります。とすれば、MD力に自信があるならば、一人のバイヤーが1カテゴリーを全部見ているという「商品あたりの知識の薄い」組織小売業に膨大なキックバックマージンを払って売ってもらうよりも、ネットマーケティング、TV通販マーケティングが上手なところに必要なコストを支払って販促した方がよっぽどいいかもしれません。
加えて、暇つぶしにネットを見ている人達にとっては、MD力を持つ商品のECは衝動買いを誘うことができるということです。もはや機能に付加価値をつけることが難しい現代は、衝動買いを如何に取り込めるかが売上アップの鍵になることは言うまでもないこと。この時にキーとなるのは、「お、これいいじゃない」と思わせる「商品力と価格と見せ方のバランス」です。この端的な例が、「この商品をお買いになった方は/興味をお持ちになった方は、こんな商品もご覧になっています」というネット通販で出てくる商品関連づけです。事実、漫画が好きな私はアマゾンのリンク(=繋がり)機能を辿っていって新しい面白い漫画や漫画家を探すことに成功しました(ex。カラスヤサトシ、福満しげゆきなど)。
消費者は常に面白くて、刺激があって、リーズナブルな価格の商品はないかと彷徨っている有権者です(オカネという投票権を持っています)。しかし、リアルの世界ではよほど大都市に住んでいなければ物理的な制約からそうした商品は探せません。また大都市に住んでいても、どこを探してよいのかわからないということもよくあることです。ならば、「ここに面白いものがあります!」と推奨できること、推奨することは流通業の責務であり、そのためにはEC、ネット通販というのは無限の可能性があると言えるでしょう。
《 なつかし消費、大人カワイイ、中古市場とECの親和性 》
三つ目は「中高年市場」です。先日、NHKの「クローズアップ現代」をたまたま見ていたら、「大人カワイイ」の特集をしていました。いわゆる「アラサー」と言われる30歳前後の女性が、「カワイイ」と言われるファッション、グッズ、価値に注目しているという内容でした。たとえばフリルやリボンのついたトップス、ミニスカート、その他その他。以前であれば、「30にもなって、フリルでもないべさ(by北海道弁)」と言われたものですが、それはもう古いと。
なるほど言われてみれば私の妻も40歳代半ばですが、さすがにフリルの服は着ないにしても、彼女の趣味であるカリグラフィー教室で仲良しの奥さん同士で作品を見せ合って出てくる言葉は「わー、カワイイ!」です。「カワイイ」が付加価値であるのは、彼女の年齢でも変わりません。
で、これを見て私が納得したのは「ファストファッションの隆盛」です。私はH&Mが日本に出てきたときにその品質のひどさから日本で受けるわけはないと思いましたし、FOREVER21に至っては完膚無きまでに失敗するだろうと思っていました。ところがその見立てが間違っていたことはご存じの通りです。何故なのかの理由を考えてわたしが行き着いたのは「日本の若者の貧困化」でした。
言うまでもなく、欧米では若者はオカネを持っていません。そうした若者向けに最新ファッションを低価格で供給したのがH&Mです。FOREVER21は低所得層向けのファッション商材です。だからこそ、今、受けているのではないかと思うのです。なぜならば、今の若いこのコーディネーション能力の高さは素晴らしい。その元となったのは「モテ系」で学んだ「しまむら」や「ハニーズ」、「ユニクロ」、「ダイソー」を使ったコーディネーションの上手さです。間違いなく貧困化している若者は従来のプレミアムブランドを買えなくなっている一方で、コーディネーション力をつけています。そこにH&MとFOREVER21という新しいアイテムを手に入れた、これがファストファッションの成功なのでしょう。
そうしたコーディネイションの力を知った、ある意味では手強い顧客がネット社会に無限に広がる数多くのアイテムを見つけ、しかも彼女らが30-40代になっていくのであれば…..。これはなかなか面白い市場が広がります。
さらに男性中高年では「なつかし消費」です。最近、流行った消費を挙げると「ホンダのCR-Z」「丸井の復活」「村上春樹」「大人向けCD売上」「マクドナルド好調」「各種復刻商品」などなど…….。CR-Zの購買層は間違いなくCR-X世代ですし、丸井さんが貸金業法と転籍組織経営の失敗を乗り越えてこれだけ回復していること、1Q84は40代・元スキゾ&パラノ世代が牽引しているし、音楽をiTunesストアで買わずにCDで買うのも大人、マクドナルドに子供について親が一緒に行っているのは藤田田さんの「子供は小さい時に食べた味を忘れない」という金言を示していますし、まぁ復刻商品の多さはどの業界でも目立ちます。
私も中高生の頃に読んだ五木寛之さんのエッセイとか吉田拓郎さんのLPとかBCLラジオなんかを買っておりますが、すべてはネット販売、ECです。となれば、何も無理して若者に媚びる消費をしなくても、大人買いをする中高年の心を動かす「なつかし消費」をがっちり握りアイテムを揃える方が容易な気がしませんか?。なにせ若者消費に関しては同世代の方が上手に決まっています。それよりも、中高年世代が本当に何を求めているのかを考える方がリアリティがあるように思うのですが(ただ年収ン千万円の役員さんが考えてはイケマセン。一日の昼食代が400円のお父さんをベースに考えなければ)。
《 そろそろECを戦略的に考えるべき時期か 》
「隣の芝生は青く見える」という「最後の楽園」的なEC、ネット販売参入は私は一切薦めませんが、一方で、上記の特性を良く考えた上でのEC、ネット販売は十二分にアリではないかなと思うのです。意固地で、あまり意見を変えたがらない私ですが、この点だけはどうも意見変更しておく必要があるなあと最近おもっちょります。