《 グレーのクルーネックTシャツ 》
 私は別にマザコンではないのですが、子供の頃から結婚するまでの間、ずっと着るものに関してはお袋が買ってくれたものをそのまま着ていました。大学生の時に近所の中学生の子に家庭教師で教えている時の写真がここにありますが、117キロの巨体に長髪、ネルの茶系の冬物シャツを着て女子中学生を教えている私はどう考えても「ちょっとアブナイ人」であります(苦笑)。長髪の秋葉原系アニメお宅が自分の娘の家庭教師という構図なわけで、よくぞ私を家庭教師に雇ってくれたものです。

 そうこうしているうちに、ウン十年。自分に息子ができて、こやつが中学校三年生になりました。しかも私と違って電車で都心を通勤する「イマドキ」の中学生ですから、私と似たような体型をしているくせにファッションにはそれなりに興味があります。でもって、ダサダサの親父(=私)の週末着にケチをつけるのですね。じゃあ、どうすればいいんだと聞くと、まず頭からすっぽりかぶるそのフリースのセーターもどきをやめて、きちんと長袖のシャツを着て、ジャケットを着ろと。で、ちょびっとばかしオシャレなシャツを着たんですが、中に白いビジネス下着シャツはオッサンくさい、せめてTシャツを着ろと息子はいうわけです。

 ところが、私は持っている薄手Tシャツは黒しかありません。これはライブドアのホリエモンさんと同じで、肥満している人は、太っているとやせて見える黒のシャツを好んで着ます。で、太っている私が持っているのはすべて黒。でも、黒のTシャツはおしゃれシャツと合わないからグレーのTシャツにしろというのが息子のご託宣。で、どこで買いましょうかと思案したのですが、瞬間的に私の頭に浮かんだのはユニクロのお店でした。なぜかといえば、ユニクロのお店というのは大きさこそ各店でこそ違えども、必ずシーズンもののメイン棚のエンド部分にホームウエアや3枚いくらのTシャツといった定番商品をおいているのですね。ですから、そうかユニクロに行って買えばいいのだと。

 ただ、店舗見学をしているときはあれほどあるユニクロのお店ですが、我が家の近くにはありません。ちょっと足を伸ばせばありますが、駐車場がない。じゃあウエブ通販で買おうと思ったら、色違い三枚セットしかなく、グレーだけというのはありません。まぁ、別に急を要するわけでもなかったので、忘れておりました。

 で、それから二週間後くらいでしょうか、月に一度用事があって行く駅の駅前にジャスコがあったので、仕事のための見学と時間つぶしにぶらぶらとみていて思い出したのがグレーのTシャツ。ユニクロにあれだけおいてあるのだから、これだけの巨艦店ならばよりどりみどりだろうと思って紳士下着売り場にいったのですが、これが無い。いや、正確にいえばあるのですが、メーカー品(という言い方も古いですね)の一枚1,000円近いものしかなく、トップバリュのあのお手頃のものがみつからない。で、売り場を探すこと30分。ようやっとトップバリュTシャツのある棚を見つけました。きっちりLLサイズのグレーのクルーネックTシャツ、しかも一枚単価にするとユニクロよりも半値近く安いのが見つかりました。これで息子にも馬鹿にされずにすみます。

 ところがどうにもアナリストとしてはすっきりしないのですね。因数分解すれば、(1)ファッションに興味がない私でもTシャツを買う時に思い出したのがユニクロであってGMSではなかった、(2)GMSの方がどう考えてもSKUは多いのに、見つけるのに30分もかかった、(3)でも見つけたアイテムはクオリティはユニクロと同等で値段は安かった、(4)もしユニクロが近くにあったらジャスコに行かずにユニクロで買ったであろう。これらの因数分解をもう一度組み立て直すと、つまり「ジャスコはきわめて多くの機会損失をしているのではないか。逆に言えば、ユニクロは実に多くの機会利益を得ているのではないか。」という結論に至ったわけです。

《 マクドナルド新商品 》
 さてさて、ここでまた別の話。先日、日本マクドナルドの決算発表と説明会がありました。翌日の新聞で取り上げられていたのは、絶好調の業績にも関わらず不採算店舗閉鎖でコストが増えるということでした。しかしながら、私が一番感心したのは新商品政策の効果のお話でした。

 この一年間、日本マクドナルドは「プレミアムコーヒー」「Big America」という大きな販促を打っています。特にコーヒーはクーポンによる無料配布などもしていて、「果たしてあれで収益が出るのか」と疑問を呈した外食関係者もいたとお聞きします。

 ところが、説明会で開示された原田社長のお話では、こうした新商品販促をすると、主力定番所品で収益性の高い「クォーターパウンダー」の併売が増えるのだそうです。しかも、コーヒーの無料配布は一時期だけのことでしたから、実質的には新商品の単価を下げずに、収益性の高い定番品が売れるという非常に理想的な形になっているのだと。これは私にとってはハッとするお話でありました。

 新商品の投入で定番販売の底入れをはかるという手法は珍しいことではありません。コンビニエンスストアのFFの新商品投入や飲料と一緒に購入したときの値引き販促などはその代表例です。しかし、安値競争で収益を大きく落としたことが今も記憶に新しい日本マクドナルドが、たった数年でこうした王道政策で成功していることには驚きました。

《 新商品と定番 》
 で、私が次に連想したのはさきほどのユニクロとジャスコのTシャツの件です。衣料と外食、全然違う業界ではありますが、この二つのエピソードには共通点があるのではないか。それは「定番と新商品の重要さへの理解」です。ユニクロの成長を支えているのが新素材を使った機能新商品による集客効果であることは言を待ちません。しかし、一方で私の例のように「Tシャツはあそこに売っていたよな」と思い出させるだけの定番商品に対するがっちりとした施策もまた業績を底支えしているように思います。一方で「マックからマックへ」とユーモアとも揶揄とも取れる書き方で原田社長の就任が報じられた日本マクドナルドが、新商品と定番のあるべき姿を具現化していることは注目すべきことでしょう。

 顧客は常にお金という「投票券」をもって、自分をワクワクさせてくれる商品を売っているお店(候補者)へ投票しようと行動しているというのは、前に申し上げた通りです。その投票券は目新しいものであればあるほど投票してくれる可能性も高くなります。しかし、次回も、次々回も当選し続けようとすれば、目新しいだけではなく、本質的な定番モノへの姿勢を問われます。一番よいのは、常に目新しいものを打ち出しながらも、定番でぶれないことでありましょう。そしてそれがどんなビジネスにおいても一番難しいことであることはよくわかっております。

 ちなみに「Big America」の第一弾であるテキサスバーガーは爆発的な人気で、私でさえ食べてしまいましたが、第二弾のニューヨークバーガーはいつのまにか姿を消し、第三弾のハワイアンバーガーに移行しています。果たしてこれが単にニューヨークバーガーが予想よりも人気がなかったからなのか、食材手当などの何らかの問題なのか、はたまた極秘戦略の一部なのかはわかりません。しかし、柔軟性のある取り組みで目新しさを訴求しつつ、定番品はガッチリ押さえるという経営方針は実に理にかなっていると思えてなりません。

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