《 「新」が今年を代表する漢字 》
 今週も色々なことを考えさせられたのですが、わたしとして一番意外感があったのは京都の清水寺で毎年発表になる今年を代表する漢字の発表でした。リーマンショック以降のこの暗い一年を考えれば、当然のことながら、「迷」とか「不」とかネガティブで後ろ向きな漢字が選ばれるであろうと思っていました。

 しかし、あにはからんや、発表されたのは「新」。鳩山「新」政権や「新」型インフルエンザなどからの連想だという説明ながら、「新」というのは明らかにポジティブ、前向きな言葉。それが選ばれたことに強い意外感を覚えています。

 ちなみにこれまでに選ばれた漢字は以下の通りです: 1995年「震」、1996年「食」、1997年「倒」、1998年「毒」、1999年「末」、2000年「金」、2001年「戦」、2002年「帰」、2003年「虎」、2004年「災」、2005年「愛」、2006年「命」、2007年「偽」、2008年「変」。この中でポジティブ、前向きな言葉は2000年「金」、2005年「愛」、2006年「命」くらいですから、今年の「新」というのはかなり珍しく前向きな言葉で有ると言えます。

《 実は企業業績も明るさ示す 》
 では実際に明るい経済は来るのか?。それを大和証券SMBCさんと野村證券の企業業績見通しの数字でチェックしたいと思います。これはアナリストの2009年度、2010年度、2011年度の三年間の業績予想を集計したものですが、結論としては漢字と同じく前向きな結果が出ています。

 ポイントは以下の三点。
1.来年度の経常利益は1.5倍になり、再来年度は2割増益になる。
2.騒がれている円高の影響は予想よりもたいしたことがない
3.相対的に製造業がより好調な回復となる

《 1.2009年度が業績の底 》
 まず今後三年間の経常増益率ですが、以下の通りです(2009年度というのは現在進行中の決算期のことです)。

野村:2009年度-1.6%→2010年度+62.4%→2011年度+24.4%
———————————————————————————-
大和:2009年度+4.4%→2010年度+53.8%→2011年度+23.6%

 対象としている企業数が大和が300社で野村が400社。野村が2009年度が悲観的で2010年度が楽観的、大和がその逆。こんな小さな差はあるにしても、
(1)2009年度の産業全体の業績は世の中の悲観論ほどひどくない
(2)2010年度は経常利益1.5倍増で2011年度は2割増という強烈なV字回復である
ということは共通しています。足下の厳しい業績に頭を悩ませている私にしてみると極めてオドロキの結果であります。

《 2.円高は言われるほど悪影響ない 》
 次に円高の影響です。ここ一週間ほどは落ち着いてきましたが、つい数週間ほど前までは円高で日本が滅びるような報道が相次いでいました。この影響はどうなんでしょうか?。これに関しては野村よりも大和さんの資料が極めてわかりやすいので、こちらを引用しましょう。

(1) 1ドル90円前提の時の経常増益率
 2009年度+4.4%→2010年度+53.8%→2011年度+23.6%
—————————————————————————–
(2) 1ドル85円前提の時の経常増益率
 2009年度+0.3%→2010年度+51.0%→2011年度+24.7%
——————————————————————————
(3) 1ドル80円前提の時の経常増益率
 2009年度-3.7%→2010年度+47.9%%→2011年度+25.8%

 数字の羅列で見にくくて申し訳ありません。ただ、「ドル80円になっても、あんまり数字は変わらんなあ」ということだけ感じて頂ければよろしいかと思います。この大和さんの資料を拝見すると、ちょっとマスコミ報道がヒステリックになりすぎていたような気がしますね。

《 3.製造業が業績の牽引役 》
 さて、最後に産業別の状況です。1で使った野村の増益率統計を(1)全産業と(2)製造業と(3)非製造業に分類します。

全産業 2009年度-1.6%→2010年度+62.4%→2011年度+24.4%
————————————————————————————
製造業 2009年度+17.5%→2010年度+117.8%→2011年度+30.7%
————————————————————————————-
非製造 2009年度-12.7%→2010年度+19.1%→2011年度+15.3%

 さらにこれを細かく業種別(セクター)で分けるとこんな感じになります。

小売:2009年度-6.1%→2010年度+12.1%→2011年度+12.7%
————————————————————————————–
商社:2009年度-30.3%→2010年度+31.3%→2011年度+8.6%
—————————————————————————————
サービス:2009年度-13.7%→2010年度+21.0%→2011年度+13.9%

 消費産業に関してはやはり2009年度は厳しい業績が予想されます。しかも、11月・12月の厳しい販売状況が加味されていないことを勘案すると、さらなる下ブレもあり得るでしょう。ただ、それでも2010年度は底からの脱出はできそうだというのは悪い話ではありません。

《 「新」による「希望」 》
 もちろんこれらはアナリストの企業業績予想を集計したものですから、色々なバイアスがかかっている可能性を否定できません。しかしながら、二社の予想がさほど極端に食い違っていないことから類推すると、我々はもう少し冷静になるべきではないかという気がします。事実、先日の日銀短観でも状況が上向いているということを示していました。

 今もって「日本破滅論」的な記事や番組がメディアを騒がせています。しかし、一方で数字は確実に良くなると出ている。この矛盾をはらむ現象は私に2000年頃の「ジャパンパッシング」という言葉を想起させます。

 「ジャパンパッシング」、転じて、「ジャパンナッシング」。あれからの10年間、何が起こったでしょうか?。確かに多くの企業が統合合併を余儀なくされ、破綻・倒産の悲劇を経験し、多くの働く人々が想像も出来ないようなストレスを受ける時代となりました。

 しかし、それでもGM・クライスラーが既に死に体になる中で、トヨタ・日産・ホンダ・マツダ・スバル・三菱・スズキ・ダイハツと日本の乗用車メーカーはすべて生き残っています。また円高で死にそうだと言いますが、普通であれば経済的にリスクの高い国家の通貨が強くなる(=円高)ということはあり得ません。この二つの事象をとっても、私は「日本破滅論」を叫ぶエコノミスト、経済評論家に合理性があるとは思えないのです。

 もちろんバカボンのパパよろしく、「(日本は)これでいいのだ!」と言うつもりは毛頭ありません。まだまだ我々の努力するべき部分は大量に残っている。政治しかり、技術しかり、教育しかり、環境しかり、であります。ただ、数字的な裏付けのない漠然としたネガティブ思考は、暗闇だからといってお化けを怖がる子供と同じようなものでしょう。

 先日、ある政治家の発言を聞いて感心しました。「無駄な歳出を削ることも大事だが、経済成長を諦めないことの方がもっと重要だ。5%の経済成長を維持できれば、今あるすべての問題は解決する。少子高齢化を言い訳に、経済成長を諦めていることの方が遙かに罪深い。」と。

 先日の私のメールメッセージは私的なエピソードを入れたために誤解を招いてしまったかも知れないのですが、申し上げたかったのはやはり人間、将来は成長していける、明日は今日よりもよくなるという「希望」なしでは生きてはいけないぞ、と。それをインフレーション経済礼賛と言わば言えということであります。その意味で、今年の漢字「新」が、「新しい希望をそろそろ見いだして行こうよ」という声なき声をを代表したものであるならば嬉しく思うのです。

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