< ネット企業 >
流通や消費といった自分の好きなエリアばかりを見ていると、ただでさえ頭でっかちなのが、さらに頭でっかちになります。ということで、最近は意図的に得意分野以外の産業・企業の資料を読んだりしています。
先日、勉強させていただいたのは所謂「ネット企業」、インターネットを使ったマーケティングの企業です。自分はパソコン第一世代であるという自負はある一方、もはやITはそんなレベルを遙か超えている。これは勉強させていただかなければわかりません。
その企業の業務内容はおおまかに言うと以下の三点。
(1) ヤフーやグーグルといったインターネットの検索サイトで、如何に自社の商品が検索の上位に来るようにするかのコンサル。
(2) 自社の商品や企業が検索された時に、好意的な口コミサイトの口コミページに誘導するかの手伝い。
(3) 誰がいつ自社のネットサイトに来て、それがどのくらい購買につながったかのアクセス解析。
ほんの1時間ほどの経営者のスピーチだったのですが、最初は驚き、感心していたのが、話が進むに連れて薄ら寒くなってきてしまいました。というのは今や生活インフラというべきインターネットが、実は陰で非常に巧妙に細工をされているらしいということがわかったからです。「ネット時代の新民主主義の到来」などという麗句が語られていましたが、トンデモナイ。なんということはない、我々はもっと巧みな手段でマインドコントロールされているようです。
< ネットは新しいメディアたり得るか >
具体例としてまず(1)。ネットの検索で、自分のイメージした情報にたどり着かないということがよくあります。検索語を変えても、順番を入れ替えても、本来であれば真っ先にたどり着くホームページがなかなか検索上位に出てこないということもよくあります。しかし、これは当然。陰で多くの「ネット企業」が色々な技術を駆使して、自分のクライアントである企業のサイトを「意図的」に検索上位に表示するようにしていたからからなのです。
ネット検索サイトというのは色々なルールで検索上位に来るホームページを決めています。たとえばグーグルは他のサイトからリンクが多いものを検索上位に表示します。ということは、それらの法則の裏をかけば、本当はたいしたことのない内容のホームページでも、検索上位に表示させることなどは簡単なことなわけです。
しかし、検索している我々にとって表示の順番が重要な順番、もしくは人気のある順番であろうと想像してしまいがちです。我々が考えていることはとっくにこうしたネット企業に先読みされて、彼らの意図するところに誘導されていると言っても過言ではないでしょう。
(2)はもっと強烈です。知らないレストランやレジャー施設、観光名所に行く際に、そこの「口コミ」情報を探すというのはよくあることです。施設の公式なホームページじゃなくて、「口コミ」だと実際に行った人の率直な感想が書かれているのでホンネの情報だと思うからです。しかし、今や「口コミ」もこうしたネット企業の介在によって「口コミ」ではなくなってしまっているようです。
詳しい技術論はわかりませんが、自社の商品や企業、サービスに好意的なコメントを書いてある「口コミ」サイトに誘導しているようです。また、「口コミ」サイトを運営している人達もそれを理解したうえで、「あなたのお店に対してこんな好意的なコメントを書いてくれますよ、ですからおチョーダイ!」いうようなお誘いをかけるのだそうです。
ちょっと過激なことを言えば、凄い出来レースをしているわけですね。確かに私も以前はあるレストランの「口コミ」サイトをよく見ていました。しかし、ある時から急に同じ人が数十件、数百件のレストランに書き込みをするようになっていて、随分とお金がある人なんだなあと思ったのです。今思えば、彼らはもしかするとこうしたネット企業から依頼を受けた「ライター」なのかもしれません。番組だと思ってみていたテレビが実はコマーシャル番組だったというような、いやーな感じが残ります。
そう考えると、活字や電波(番組)に弱い我々が新たに得たと思っていたニューメディア、インターネットも、所詮ウラのあるメディアの一つに過ぎないようです。いや、むしろこれだけみんながネットネットと騒ぐということは、ネットによる「マインドコントロール」の罠の大きさは活字や電波どころではないのかもしれません。しかも、キーボード一つで検索出来てしまう今の時代だからこそ、かえってマインドコントロールは巧妙になり、コントロールされていることすら気づかないケースが多いように思います。
< 漠たる不安 >
さて、これだけでは単なる与太話。何か美しい結論に着地しなければ…..。
ここで「こんな時代だから、本当の価値を訴求しても意味がない。それよりもネットで受けるような方法を講じた方がよい。」と考えるか、「こんな時代だからこそ、本当の価値をコツコツと訴求していこう。いずれ嘘はばれる。真摯にやろう。」と考えるかが企業文化の背骨を決める気がします。どちらが良い悪いではなく。
この議論は、一年前の金融バブルに似ています。「借金を返せない人間に金を貸すサブプライムローンはトンデモナイ」と考えるか、「トンデモナイけど、他社はやっているし儲かるからやっちゃえ!」という考え方です。
多分、多くのネット企業は私のこんな投げかけを鼻で笑うのだと思います、「そんな時代じゃないんだよ」と。「ネットで客が来てくれるんならばそれに越したことはないじゃないか」とも。しかしながら、本質的な価値と表層的に「見える」価値が乖離すればするほど、何かの時のズレの衝撃は大きくなるような不安も感じます。
< 見分ける力 >
多くの流通業がネットでの無店舗販売にユートピアを感じ、多くの外食業がネットでの口コミやクーポンでの集客が第一であると考え始めています。確かに日々の売上を作る際にはそれは否定できない。まずは売れてナンボであります。しかしながら、それらが本質なのかどうかについて常に疑問を持っておくことは必要ではないでしょうか。
「理想と現実と本質」、何が理想で、何が現実で、何が本質かを分離して考えておかないと、本質を捨てて、現実だけしか見ない悪しきプラグマティズムに陥る危険性があります。「美女(=現実)の姿に骸骨(=本質)を見る」ことを心がけておかないと、これだけ巧妙なマインドコントロールが横行している世の中、自分を見失ってしまうような気がします。
我が家の子供も、ご多分に漏れずヒマさえあればネットとiPhoneをいじくり回しています。それ自体は私は一切否定しないようにしているのですが、ただ余りにも一生懸命にそればかり見ているので、こう言ってしまいました。
「おまえさぁ、それはすごく便利だけど、そんな簡単にとれる情報に価値があると思う?。そもそも、もしそんな簡単に何でもわかるんだっったら、何でもいまだに入試と受験と定期テストがあって、何十万人という人が一生懸命勉強しているんだよ。おまえ、だまされるなよ。」
自分としては「キマッタ!」と思う名言だと思ったのですが、子供は何を言っているのかよくわからず、戸惑っているようでした。もはやこの世代は新しい価値観の中で育っているようです。
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