< 西友 >
それまで全くノーマークで、業界の話題にものぼらなかったことが、ある時に偶然、集中して話題になることがあります。最近そういう経験をしたのが「西友」です。
言うまでもなくウォルマートによる資本出資以降、西友はどちらかというとポジティブではない論点から語られることが多かったと言えます。日本と米国での生鮮食品の扱いの差、価格と品質のバランス、サービスクオリティなどなど。ものすごく荒っぽい言い方をすれば、「ウォルマートはいくら強いと言っても、主な顧客層は低所得層だし、日本のきめ細やかな生鮮コントロールはできないよね」という、ちょっとシニカルなものであったように思います。
しかし、その西友に対する評価が一部では変わり始めているようです。事実私も二ヶ月前に、3年ぶりにじっくりと赤羽本社のお店を拝見してからは目から鱗が落ちるような感じで西友のお店を拝見するようになりました。
< 従業員のいない店 >
まず驚くのが「従業員がいないこと」です。色々なエリアで色々な時間帯に訪問しましたが、補充作業をしている従業員をまず見ません。では欠品だらけになっているかと思うと、きちんとモノは揃っています。顧客も満杯ではないけれど、コンスタントに来ている。ということは売れないから補充していないのではありません。「補充コントロールが非常にうまくできている」ということだと想像します。
次に驚くのが店内が静かなこと。日本のSMではあちこちで呼び込みの声が聞こえます。それはそれで市場(いちば)の雰囲気を出しているのでしょうけど、うるさいこともまた事実。しかも店員が呼び込みしているのではなく、殆どすべてがテープです。これで購買が増加するかは今の時代、甚だ疑問です。なにせ実際に店員が顧客の買い物かごにカートをぶつけても知らん顔なのですから、フレンドリネスの底の浅さは顧客もとっくにお見通しでしょう。それならば、いっそのこと西友のように静かにジャズを流して、淡々と欠品なく売ってくれる方が親切である気がします。
什器や売り方も面白い。冷凍食品にリーチインのケースを使ったり、カートン売りを促進しながらも補充が楽なオープンバックヤードを酒売場に導入するというウォルマート的な手法を入れながら、デリカはきちんと子会社の「若菜」を使い続けています(なんと278円弁当にも対応しています)。日本的なローカルメソッドと、ウォールマートのグローバルノウハウがバランスを取りながら使われているというのは誉めすぎでしょうか。
< 足りないのは価格対応 >
唯一まだ弱いなと思うのは価格対応です。全般的にはまだイオングループのお店の安さには追いついていない。「買い物バスケット一個としての低価格をアピールするEDLPをやりたいのであって、特売のハイアンドローは目指してませんから」と言われたとしても、やはり一単品での安さのアピールはまだまだ日本では人気があります。特にグローサリーでは「トップバリュ」、「ベストプライス」の牙城は崩しがたい強さがあります。
でも、西友もウォルマートのPBである「グレートバリュー」が袋ラーメンのようなものでも展開され始めたりしています。これもちょっと肩入れしすぎかも知れませんが、解決すべきなのは時間軸だけの問題で、いずれイオングループの価格に追いつくのかも知れないなと思わせる不気味さがあります。
< 西友Wal-martは川上支配に一石を投じられるか >
当初はこういう見方がわたしだけの見方なのかと思っていたのですが、時々、かなり鋭い嗅覚を持っている方々から似たような意見を聞くようになってきました。前にも申し上げましたが、常識というものは往々にして「最終局面」の見方であることが多く、一方で非常識は「始まり」の見方であることが多いので、もしかすると「西友復活」は何かの始まりなのかもしれません。
西友は”Save money, Live better.”をスローガンにしています。意訳をすれば、「賢い節約で豊かな生活」。もちろんこれは流通業界の長きにわたるテーマでありますが、低価格が目的化する中、今一度見直すべき言葉であるように思います。
前回のコメントの続きになってしまいますが、自社が供与すべきサービスは何なのかということはとても重要になるように思います。「流通業は回転差資金で資金が回るから安全なんだよね」という考え方は、逆に言えばこれまで30年、40年かけて創り上げてきた「非合理的な通流コストを消費者に還元するのが流通業である」という社会的存在意義を放棄する言い訳になっているとも言えます。
もっとありていにいえば、一部の流通業は「川上産業と伍して闘ってきた過去を忘れ、いまや流通業は自社の企業延命のために川上の軍門に下っている」のではないかとと思っています。時計の針を戻しているのは、既存勢力などではなく、実は流通業自身なのかもしれないのです。
西友が果たして本当に奇跡の復活を果たし、日本の流通業の中で高い地位を占めるかどうかはわかりません。ただ、消費者は思ったほどバカではないし、そのバカではない消費者が支持しない限り流通業は生き残らないということはかなり確度の高い事実と思います。必要なものを必要な分だけ安い価格で淡々と売り続けるということをした流通業は間違いなく支持を受けます。そうしたならば、と考えると、最近の西友の姿はとても興味深い事実を含んでいるように思います。
- 2009年度小売中間決算をどう見るか
- 「理想と現実と本質」