▼ 今年で退官する大学の先生がアルムナイ(OB)向けに行ったリモート講座を見た。タイトルは「常識を疑え」。内容もその通りで、最初に聞きたいテーマを教えてくださいということでアンケートをとったのだが、「ダイバーシティは女性を活かさない」「コーポレートガバナンスで会社は良くならない」「社外取締役は役に立たない」などなど、刺激的な内容。しかも、アンケートとっておいて、「アンケート取りましたが、僕の好きなことを勝手に話します」ときたもんだ。さすが人気教授。素晴らしい。
▼ 最近流行っている日本悲観論では、以前に書いた中国もあるが、産業分野では内燃機関(=エンジン)が自動車から消えて全部電気自動車になる、とか、半導体産業は台湾に一極集中して日本は調達できなくなる(半導体サプライチェーン問題)などがある。これらの記事を見る度に、バカこけ、とつぶやくのが僕だ。
▼ まず半導体。確かに供給不足だ。コロナ禍でサプライチェーンが寸断され、一方でIoTだ、センサーだ、EVだ、PCだ、スマホだ、サーバーだと需要は拡張し続けているのだから。そりゃ、無事動いているTSMCやらUMCに依存することとなるだろう。日本の半導体工場は焼けちゃうし…(何やってんだか)。
▼ しかしだ。半導体半導体というけど、日本がかつて「電子立国」であった時代から急速に力を落としたのは、汎用のDRAMや当時は最先端のフラッシュメモリがコモディティ化して、巨大な投資を必要とする半導体製造業と単価-コスト面で間尺に合わなくなってきたと言うことを忘れてしないだろうか。当時の自分は半導体材料を調査していたが、シリコンウエハーは6インチが基本で8インチにチャレンジしようとしている頃だった。それが今は10インチ。何故か。それだけ歩留まりよくとれるからだ。そう半導体は、システムLSI(懐かしい言葉だ)やCPUなどの特殊なものを除けば、如何に巨大施設で高稼働率を維持し、歩留まりを上げるかという限界利益を競う産業でしかない。そうなれば、鉄鋼や化学などの素材と同じく、新興国の巨大工場に叶うわけもなかろう。
▼ 一方で最近新聞にも載ったのが、半導体材料のシリコンウエハーが足りないという記事。そう足りないのだ。しかも日本が50%のシェアを持つ。SUMCO、信越化学などの10インチウェハインゴッドの製作技術の高さはハンパではない。それをスライスして半導体を焼き付ける基板を作るのだが、その後もスパッタリングや表面保護や感光剤塗布、微細光線での回路焼き付けなどになると、これはもう東京応化や東京エレクトロンやその他多くのナノレベル技術の日本企業無くしてできない。二年ほど前か、韓国が日本から洗浄用の薬剤が輸入できなくなり(軍事転用しているため)、大暴れを韓国したことがあったが、そういうものなのである。
▼ 内燃機関もそうだろう。EV、EVとかまびすしいが、みなさんのご自宅で電気自動車充電用の200W電源を駐車場に設置している家はどれだけありますか。ましてやマンションは?。そう今の段階では現実的に可能なのはプラグインハイブリッドなのだ。確かに熱伝導ロスなしでダイレクトに車輪を回せるEVのトルクは素晴らしい。しかし、そのためのエネルギーを注入する場所がなければただの箱だ。もちろん、これからどんどん充電設備はできるのだろうけど、考え無ければならないのは自動車500台ある地域にガソリンスタンドは一軒で十分だが、EVは各家に一つ必要なのだ。いや、一家に一つ、一台に一つ、か。それって現実的ですかね?
▼ トヨタの章雄社長が怒るのは無理もない。内燃機関を全部EVに移行するためにどれだけのコストと新規投資と負担が産業・消費者に求められることか。そしてそのためには、悪路では依然として圧倒的に強いトヨタのランクルのようなものまでやめてしまえというのか。あのね、アスファルトやコンクリート舗装している道があるのは先進国の極一部なんです。アマゾンの奥地にEV充電器はないぞ。
▼ だから広義のトヨタグループは、アイサイトで安全を極限まで高めたスバル、ロータリーエンジン復活をさせようといって内燃機関を残そうとしているマツダ、短距離EVで足として使えるスズキやダイハツを持っている。なるほどよく考えてますなあ。
▼ そうは言っても、問題はある。EVや半導体から離れるが、日本企業の基幹技術、要素技術を上手に製品化できないという組織や人の問題だ。いくら素晴らしい要素技術をもっていても、それを活かしてプロダクトにするときに邪魔をするセクショナリズムが日本企業ほど激しいところはない。結局トップがやろうというまでグダグダいって自分の城を守ろうとする。何故?。自分の城を攻められたら、そこに居場所がなくなるから。じゃあ、他の企業や組織に転職したり、起業しやすくすればいいじゃん。そう、まさしくそう。それを今の若者は易々とやり始めている。
▼ 彼らは組織もジジイも信じない。なんてたって、一生懸命やったって、50代声らたらこういう扱い受けますというジジイとババアが窓際で暗い顔して、口だけ番長のオツムの悪いおべっかつかいの年下部長にいじめられているんですから。若い子は賢く、柔軟性あります。今のアントレプレナーブーム、スタートアップブームの6割の理由はカネ余りですが、4割は若者の思考進化です。これに対抗するには組織と人の扱いを変えねばなりません。そしてそれは、やっと30年、40年我慢して役員さんになった人たちの既得権益を奪うことです。多分抵抗するでしょう。となれば、革命です。彼らを追い出すのでは無く、彼らが経営している企業が立ちゆかなくなるように、若い人たちが作った会社がそれら古い企業を潰すのです。2020年を境に世界が変わるというのは、実はそういうことなんじゃないでしょうか。
大変わかりやすい構図が見える化しました。これからの社会の変化において、若い力が柔軟性を持って改革して下さることを願っています。まさに、ニューノーマル時代創出。