▼ 日本の人はやはり「カイゼン」が得意なのだろか。ワクチン接種で色々な地域の色々な立場の人が、より効率的な方法を打ち出している。このため、予想していたよりも早く物事が進みそうだ。そのせいか、ギスギスしていた世間の雰囲気がばかり和らいできているような気がする。ちょっと嬉しい。
▼ そんな中でテニスの大坂なおみさんがお辛い気持ちでいるという報道は胸が痛んだ。あれだけの素晴らしいプレイをなさる方だもの、体力や技術だけでなく、精神的にも繊細な方なのだろう。記者会見で楽しい言葉でファンを喜ばせるのも、そうした細やかな気持ちがあってのことなんだろう。勝負の世界の中で、そうした細やかな気持ちを持ち続けるのは、時には重い負担になるのだろう。ちなみにメディアで「鬱病」と大阪さんのコメントを翻訳して紹介していたが、”long bouts of depression”は「気分が落ち込む長い不快な期間」であって、「鬱病」という病気とは限らない。あえて言えば、「抑うつ症状」という色々なストレスや気持ちが滅入ることが繰り返しあって起こる、気持ちが塞ぐ状況である。言葉は言霊、正しく使いたいですね。
▼ そんな大坂さんの様子を見ていてふと思い出したのが、以前に勤務していた会社の保健室でやってくださったカウンセリング。サラリーマンしていると、あんなことや、こんなことや、そんなことなどなど、「嫌んなっちゃう」ことだらけだ。かといって、いつも同僚や友人に相談できることばかりではなく、八方塞がりになることもしばしばあるのは誰もが経験しているだろう。このカウンセリング、無料でリラックスした雰囲気で1時間弱、こっちの「愚痴」を聞いてくれるのでありがたいことこの上なかった。
▼ ある日、仕事で上司、同僚、お客様の板挟みにあって、うまくやろうとしたものの、かえって事態をこじらせてしまったことがある。朝、会社には行きたくないし、言ったとしてもこじれたことの解決方法もなく、悶々として保健室のドアを叩いた。いつものようににこやかに「愚痴」を一通り聞いてくれたカウンセラーさんは一言、こう言った。「佐々木さん、神様の仕事をしちゃダメ。あなたは神様の仕事をしようとしているのよ。それはね、無理。」
▼ よく分からなかったので「神様の仕事」とは何ですかとお聞きすると、万人に良くする/良くしなきゃという考え方と行動のことだと。なるほど、上司、同僚、お客様の全てに良いような方策はないかと悩んでいたときなので、この言葉にはハッとした。カウンセラーはこうも続けた、「みんな自分のことで精一杯。こんな時代ですもの。機嫌が悪いときもあるし、朝、家族と喧嘩をしたかもしれないし、その人はその人で別の問題を考えているかもしれないし。だから、佐々木さんは自分ができるベストの事をする、そしてそれ以上何かをしようとは思わない。人は人ですもの。人のことまで面倒見ていたら、参ってしまうわよ。」と。
▼ 幸い、大阪さんはスポンサーや多くのファンのサポートもあり、お休みをして考える時間を取ることができるようだ。良かった。そういえば日本でも深田恭子さんという女優さんが「適応障害」という抑うつ症状に似た状況になって、お仕事を休んでいる。報道を読むと責任感が強く、頑張り屋さんで業界では有名だったそうだ。
▼ 吉田拓郎さんの唄に「ガンバらないけどいいでしょう」というのがある。2009年、拓郎さんもちょっとしんどくなった63歳の時に作った歌で、若いときのように元気がでない自分に「がんばらなくてんもいいでしょう、私なりって事でいいでしょう」と語りかける歌だ。一部の昔の彼を支持していたファンにはあまりウケがよくない歌なのだけど、カウンセラーさんの「神様の仕事をしようとしている」という言葉や、大坂なおみさんのことを考えると、なるほどなぁと感じるのです。