〔更生計画下の実務がスタートした〕
事実上倒産した翌日、会社更生法下における実務がスタートした。まずは今までの代表取締役に代わり、「管財人」が会社のトップとして就任され、資金的な信用を担保する米国のファンドよりマネージャーも着任された。そして契約関係で我々をフォローして頂く弁護士の方々が本社ビル最上階に陣を張った。我々実動部隊は「会社の態勢も整ったことで、心機一転頑張ります!!」・・・・とはならなかった。その理由は後に記すことにする。まず驚いたのは売上高があり得ない勢いで伸びてきたことだ。世間様にはあらゆるマスコミが中堅小売業「会社更生法届け出」を報じていたので、誰しもがこの事態をご存じだった。我々は「きっと店舗のファンであられるお客様が支援して下さる為に、お買い物に来られてる」と自分勝手な妄想を抱いたが大間違いであった。なぜ、多くのお客様が訪れたかというと「眠っていた商品券」である。すでに発行されている商品券が箪笥の引き出しにあるが、それが紙くずになったら大変とばかりに、お買い物をされていた。しかもカードポイント(500ポイントで500円の買い物券発行)も実施していた為、それも込みでお買い物されていたのだ。読者様はお気づきだと思うが商品券は販売時、すでに現金は頂いており、使われた時に商品の所有権がお客様に移動するという仕組みである。カードポイントは完全なるサービスである。つまりキャッシュイン無しでどんどん在庫が消えて行くのである。当時、私は商品部に在籍していたが、それを知った時、我々はパニックに陥った。店舗は発注しても商品は入荷しない。メーカー、問屋にお願いしても「債権問題が解決しないことには商品は納品できない」と言われるのは素直に納得できる話である。連日取引先の債権回収部署が来社され、債権について納得できる回答を出してほしいと要求される。いかに対応するか、連夜深夜まで会議が開催されたが数日後ようやく糸口が示された。保証金の差し入れ、支払いサイトの短縮である。支払いサイトは週締め週払いが基本となった。限られた自己資金から血の一滴と言える資金を保証金として差し入れるわけで、弁護士による精査を経た後、管財人及びファンドの許可を得なければならない。連日、保証金差し入れ申請書の束を抱え弁護士に相談に行くが、弁護士チームも係争のプロである。「保証金はこの半額で交渉やり直し」とか「この取引実績であれば保証金は必要ないであろう、再交渉せよ」等々、いろいろ厳しい注文を付けられ、一発で了解が取れることはまれであった。毎日何が起きるか不安でたまらない日々であり正直、弁護士はどちらの味方なのだと腹も立てたが、好意的に考えれば、このような事態を招いたことへの再認識、そして経営を継続することの覚悟を教えられていると自分に言い聞かせるしかなかった。
〔薄氷を踏む思いでの交渉〕
バタバタしながら最初の2週間が過ぎたところで新たな問題が発生した。週間締めでの支払い伝票が計上漏れを起こす、あってはならぬ事故が発生し始めたのである。店舗には週間締めを厳守するようお願いしたにも関わらず、更に信用不振の種を増やしてしまう事実が多発した。そうなると相手側からも恐ろしい要望が突きつけられる。それは①一定金額を差し入れること②一定金額以上の納品はしない③納品した商品代金は差し入れ金額より差し引くのでその分、再度差入れよ、である。そして、またまた事件である。ある企業から「社内で貴社に対して当面掛け売りはしないこと決定したので明日より商品は納品しない」と告げられた。その企業は業界でも中堅企業であり、そうなれば一斉に各社より取引停止の恐れがある。営業担当者様にお待ちいただき、最優先で弁護士を説き伏せ、経理に走り金庫から数百万を出金し「これで3日分はお支払いできると思いますので、まずは発注した分だけ納品してください。また3日後に私からお支払いに出向きます。」とお伝えし、その場でご担当の役員様に連絡を取って頂いたところ了承を得ることができたのである。翌日、先方から連絡が入り、「当方の経理が対応できないので、保証金差し入れ週間締めのサイトで了承。」とのことであった。伝票はお金であると教えられてきた。勿論そのことを疎んじていたわけでは無いが、過去においては買掛金額の不一致等については調査します、の一言でその場が収まってきた。ここに至ってはそのような行為が致命傷になることを数千人の従業員全員が改めて知ることとなった。
続く